第215話 準備

 いよいよ明日に迫った学園舞踏会。

 本日は生徒会の仕事を早めに切り上げる。

 理由は簡単――女子たちのドレス合わせのためだ。


 特にドレスを学園からレンタルするマデリーンは気合が入っていた。

 原作【最弱聖剣士の成り上がり】では、ラウルに想いを寄せ、のちにハーレム要員の一員となるマデリーン。

 こちらの世界では、ラウルと幼馴染の関係であったユーリカが無事結ばれたことで、マデリーンは振られたという形になった。おまけに実家は貴族としての地位を失うことになってしまった。

 しかし、そこで気持ちをスパッと切り替えたマデリーンは前向きに次の相手を捜そうとしている。そのポジティブな姿勢は見習いたいものだ。


「うーん……アピールするためにはもっとこう胸元がガバッと開いたデザインの方がいいかしら?」


 そう語りながら、マデリーンは試着したドレスを鏡でチェックする。

 ……あまりあざとすぎるのも、それはそれでちょっと問題があると思う。


 一方、ティーテは、


「ど、どうですか、バレット?」

「たいへんすばらしいです」


 今日も死ぬほど天使だった。

 あまりにも可愛すぎて語彙力が著しく低下するほどであった。


「も、もう、バレットったら」


 俺に褒められて赤面する姿もまた可愛い。

 さらに、


「わ、私にこんなドレスは似合わないわよ」

「そんなことないよ。とっても可愛い!」


 大盛り上がりしているのはクライネとメリアであった。 

 生真面目なクライネは普段からあまり華美な服装を好まない。最初に選んだドレスも、そういった意味では彼女らしいチョイスであった。

 しかし、それに待ったをかけたのがメリアだった。


「クライネはもっと可愛らしいドレスも似合うよ!」


 と、熱弁を振るい、その圧に押されたクライネは言われるがままメリアが選んだドレスを着用。

 それはまさにマデリーンが選ぼうとしていた、少々露出多めのドレス。

 これまでのクライネ・フォズロードという女子のイメージを根底から覆すものであった。


「なかなか大胆ですねぇ、クライネ先輩」

「ち、違うわよ! これはメリアが選んだものであって――」

「でも、鏡を見ている時の先輩の顔は満更でもないって感じでしたよ?」

「んなっ!?」


 マデリーンにいじられるクライネ。

 これもまた新鮮な光景だ。


 ――そして、もうひとり、


「…………」


 黄色いドレスを手にしたジャーヴィス。

 どうやら着てみたいという気持ちはあるようだが、踏ん切りがつかない様子。

 するとその時、彼女の肩をポンと優しく叩く者がいた。


「もう何も我慢することはないんだぞ、ジャーヴィス。これからは着たいと思ったものを自由に着ればいいんだ」

「アンドレイ……」


 アンドレイだった。

 そのひと言が、ジャーヴィスの心を縛りつけていた鎖を粉々に砕いた。


「ありがとう、アンドレイ。ちょっと試着してくるよ」

「おう!」


 ジャーヴィスはドレスを手に、試着室へと入っていった。

 大きな一歩を踏みだした彼女は、これからも大きな変化がありそうだ。


 とりあえず……次は水着かな。



 こうして、数々の想いが巡る中、いよいよ学園舞踏会が始まる。

 できれば今年は何事もなく、無事に終われるといいのだが。

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