第213話 ある日の生徒会

 生誕祭終了の翌日。

 学園ではすでに次の舞踏会へ向けた準備が始まりつつあった。


「ここが前期の山場だな……」

「舞踏会の後は定期試験ぐらいですし、そのあとは夏の長期休校ですからね」

「そういえば、今年の夏はどこへ行こうか」

「うーん……できれば、今まで行ったことのない場所へ足を運んでみたいです」

「いいね! マリナたちにいい場所がないか、ちょっと相談してみるよ」


 授業後の生徒会室。

 生徒会長である俺と、副会長であるティーテ。

 ふたりだけの空間――そんなことも手伝って、俺たちはついついそんなプライベートな話に花を咲かせてしまう。

 だが、すぐに気持ちを切り替えて仕事を再開。

 その主題は、やはりというか舞踏会絡みのことだった。


 一年前の学園舞踏会。


 バレット・アルバースになって間もない時だったな。

 思えば、これがきっかけでジャーヴィスが女の子だって分かったんだよな。

 その後、ジャーヴィスは学園祭の武闘大会終了後に全学生に向かって自分の性別をカミングアウトした。

 おかげでレクルスト家、さらにマデリーンのところのハルマン家が消滅する事態にまで発展したが、国家転覆を狙って暗躍していた者たちがいなくなり、国としては平和が訪れるきっかけになった。


 ……まあ、不穏な気配が完全に消え去ったわけではないらしいけど。


 そんなことを考えていると、生徒会室のドアをノックする音が。


「失礼するわ」


 入ってきたのはクライネだった。


「舞踏会の通知を送る来賓のリストだけど、これでよかったかしら」

「ありがとう、クライネ。すぐにチェックするよ」


 俺はクライネから書類を受け取り、目を通す。 

 来賓は去年よりも少し数を減らしていた。

 恐らく、事前に断りを入れたところがいくつかあるのだろう。

 まあ、無理もないか。

 去年は合成魔獣の襲来があったりして大騒ぎだったからな。あれの元凶だったレクルスト家とハルマン家はいなくなったとはいえ、さすがに敬遠しているところがあるのか。


 そんな中、今年は去年以上の厳戒態勢で行われる予定だ。

 その辺の詳しい状況は生徒会でなく、アビゲイル学園長の仕事だな。

 一応、俺たち学園騎士団も警戒に当たるが、この舞踏会の主役はその学園騎士団に所属する学生でもある。

 ラウルやアンドレイにも楽しんでもらわないとな。


 それと気になるが――結局、生誕祭ではその正体を掴むことができなかった、《この世界を知る者》について。


 話を聞く限り、ヤツはこの学園に通っている女子。

 ほんの一瞬で顔まで確認できなかったが、おおよその外見も把握した。


 この学園舞踏会では、もっとその正体に迫りたい。

 そして知りたい。

 なぜ、彼女がこの世界のことを熟知しているのか。

 俺と同じ転生者なのか。

 或いは――


「また難しい顔をしていますよ、バレット」


 ティーテに声をかけられて、俺はハッと我に返った。


「相変わらず、考え込むと深い男ね」

「物思いにふけるバレットも素敵ですが……でもやっぱり、もっと一緒にお話をしたいというか……」

「急に惚気ないでくれる?」


 ……もう何度目だよ、このやりとり。

 もっとしっかりしないとダメだな。

 なんといっても、俺が生徒会長なんだし。


 その後、来賓リストをクライネに返却。

 クライネはそれを職員室へ届けてから寮へ戻ると告げて生徒会室をあとにした。


「俺たちも帰ろうか」

「はい!」


 こうして、今日も平和だった一日が終わった。

 ……できれば、卒業までこの調子でいたいものだな。

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