第209話 追走

 国王生誕祭で賑わう王都で発見した怪しい男たち。

 もしかしたら、ティーテを危険な目に遭わせた、あの暴動グループの残党かもしれない。そう感じた俺は、ティーテとクライネを引き連れて男たちのあとを追った。


 回復魔法に長けるティーテは非戦闘要員。

 その分、クライネに働いてもらうとしよう。


 アンドレイやジャーヴィスなど、学園騎士団に所属する者たちと比べてしまうと霞んでしまうが、クライネも十分強い。

 以前、レイナ姉さんが言っていたけど、クライネは例年通りなら生徒会長に推されてもおかしくはない実力を持っているらしい。ただ、同級生にとんでもないのが多すぎて目立たないのだという。


 だが、クライネはそんな現状に挫けず、今まで必死に努力を重ねてきたのだという。

 そういったところをアビゲイル学園長は評価して生徒会に入れたんだろうな。

 

 男たちのあとを追っていると、


「あれ?」


 俺たちがたどり着いた先は――行き止まりだった。

 

「どういうこと……?」

「隠れているのでしょうか……」


 クライネとティーテが不思議そうに辺りを見回す。

 確かに、おかしい。

 身を隠したにしても、ヤツらに気づかれたと臭わせるような素振りは一切見られなかったはずだが――と、その時、


「へへへ、ヤツの言った通り、小さいネズミが出てきやがった」

「運のねぇヤツらだぜ」

「おっ? そっちのふたりのお嬢ちゃんは可愛いねぇ。いい値がつきそうだ」


 俺たちの背後から、追っていたはずの三人組が姿を現す。

 三人とも手には武器を持っており、ヤル気満々って感じだ。


 ……だが、気になるのは最初に話しだした男が言っていた「ヤツ」の存在。

 どうやら、そいつから追われているという情報を受けて、逆に俺たちを待ち伏せしていたらしい。

 それに、「いい値がつきそうだ」という言葉も気にかかる。

 まさか連中……違法となっている人身売買をどこかでやっているのか?


「仕事熱心で真面目な性格が裏目に出たな。これに懲りたら、もっと手を抜いて仕事をすることを勧めるぜ?」

「「「ぎゃははははは!」」」


 下卑た笑みを浮かべる男たち。

 俺たちは完全に退路を断たれた形になっているからなぁ……余裕の態度をとってしまうのは分からなくもないが――どうやら、情報提供者は俺たちの強さまではあいつらに教えていなかったらしい。


「悪いが、俺たちの姿を見られた以上、このままにはしておけねぇんだわ」

「それはこっちも同じだ。おまえたちのような連中を野放しにしておくわけにいかない」

「勇敢だねぇ、少年。そっちの女の子たちにいい格好を見せようってわけか?」

「それも無駄に終わるぜぇ? まあ、もっとも……おまえに見せつけながら女の子たちと楽しむってのも悪くねぇが」

「……その薄汚い口を閉じろ」


 もう我慢の限界だ。

 ヤツらを放っておけば他に犠牲者が出るのは火を見るより明らかだ。


 ここで――捕える!


「おいおい、本気でやろうっていうのか?」

「俺たちは三人。おまえはひとり。力の差が理解できるか?」

「悪いことは言わねぇから、そっちのお嬢ちゃんたちをこっちへ寄越しな」

「断る」


 俺は短くそう告げると、聖剣を抜いた。

 直後、俺の怒りの感情を表すように、凄まじい魔力が突風となって男たちを襲う。


「「「へっ?」」」


 状況が一変したことで、男たちは呆然と立ち尽くしている。

 いい的だな。

 俺は三人へ拘束魔法をかけて動きを封じると、少し痛い目を見てもらおうと属性を雷に変更した。


「「「あばばばばばばば!?」」」


 拘束されながらの雷撃――これで少しは懲りたろう。



 その後、俺たちは拘束した男たちを巡回していた騎士に知らせて身柄を預かってもらう。

 始まって早々にトラブルがあったけど……もしかしたら、他の場所でも同じような出来事が起きているかもしれない。

 俺はティーテとクライネに呼びかけ、周辺の警戒を続行することにした。

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