第208話 国王生誕祭
学生も多く参加する国王陛下の生誕祭。
どんな祭りなのか楽しみにしていたが――開催日の朝から王都は大変な賑わいだった。
「す、凄い熱気だな」
「本当ですね……」
まだまだ早朝という時間帯ながら、多くの人でごった返していた。
王都といえば朝市が有名で、もともと朝から人は多い場所ではあるのだが、今日の生誕祭はそれとは比べ物にならない人の数であった。
俺たち生徒会と学園騎士団の目的は、この祭りに参加する予定の学生たちの安全を守るということだ。
大人数のお祭り。
そこには当然酒も絡んでくる。
そうなると、暴力的な事件が出てくるのは必然の流れ。
学生が巻き込まれたら大変なことだ。
とはいえ、さすがに貴族クラスともなれば護衛の人間がついて回る。それに、有能な者が集う学園ではあるが、俺たちくらいの戦闘力がある者は多くはない。ラウルのような平民出身者でこの祭りに参加している者は何かと狙われやすかったりする。
だからと言って、これだけ賑やかな場に足を運べないのは忍びない――というわけで、実力者が揃う生徒会が見て回るのが通例となっているのだ。
俺たちはまだ朝霧が立ち込める時間帯から寮の前に集合し、王都へとやってきたのだが、それでも遅かったみたいだ。
さすがに学生の姿は見えない――と、思ったら、
「あれ? あそこにいるのは……」
目に入ったのは屋台を準備している親子。
父親と娘かな。
その娘は俺たちのクラスメイトだった。
「そうか。親の手伝いで来ている者もいるのか」
これは盲点だったな。
中央通りの一番賑やかな場所を中心に見回りを行おうと思っていたが、もう少し範囲を広げた方がよさそうだな。
学生もそうだが、俺はもうひとつ注意したい存在がいた。
それは――学園の卒業生だ。
ティーテを危険な目に遭わせたあの暴動グループには、学園のOBがかかわっていた。同じようなことが起きるなんて想像したくもないが……アビゲイル学園長はその点を懸念している感じだったな。
とにかく、怪しい動きをしている連中はマークしておく必要がある。生誕祭としているだけに、警備する騎士もたくさんいるから、何かあればすぐに報告も可能な点も心強い。
そういった点を確認し、俺たちは事前に決めておいたグループに分かれて生誕祭の見回りを開始した。
俺たちのグループは王都の南側へとやってきていた。
ちなみにメンバーは俺とティーテ、それから――
「人が多くて酔いそうだわ……」
ぐったりしているクライネだった。
「大丈夫、クライネ」
「え、えぇ……平気よ、ティーテ」
「無理はするなよ。少し休もうか」
「…………」
「? どうかしたか?」
「あなたに優しい言葉をかけられるの……未だに慣れないわね」
学園内では信頼される存在になったと思っていたが、クライネはまだ完全に信用してはいない様子。まあ、彼女はもともと用心深いところがあるし、恋人(?)のメリアには随分ひどい仕打ちをしてきたからなぁ……無理ないか。
「ク、クライネったら……バレットはちゃんと立ち直ったのよ?」
「……もちろん、去年一年間の実績から私もそれを理解しているつもりだけど……」
訴えかけるティーテを前にバツが悪そうなクライネ。
やれやれ、どうしたものか――と、思っていたら、
「うん?」
何やら怪しい三人組の男が路地裏へと入っていく光景が目に入った。
……早速、厄介な現場を目撃してしまったな。
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