第204話 波乱(?)の入学式
諸々不安を残しつつ始まった入学式。
そんな俺の心内を嘲笑うかのごとく順調に式は進行していった。
「無事に終わりそうですね、バレット様」
「あ、ああ」
会長挨拶も無事にこなし、舞台袖へと戻ってきた俺はしばらくラウルとともに式の様子を眺めていた。
本日はこのまま解散となり、寮の説明へと入る。
ちなみに、神授の儀は二年生になってからのイベントなので、新入生はひたすら基礎的な演習と座学の繰り返しだ。地味で目立たないものばかりだが、基礎基本をないがしろにして上達は見込めない。原作版バレットがいい例だ。
……さて、ここまではラウルの言う通り、何の問題もなく進行している。
それ自体は非常に喜ばしいことなのだが……ひとつだけ不安点を挙げるなら、問題のピラール・アゼヴェードが誰なのか分からないという点だった。
これは今までの人物にも当てはまることだが……俺が顔を知っているのは、一巻の段階でイラスト化され、なおかつ作者がSNSにデザイン画を投稿した者に限られる。ピラールの登場は物語中盤なので、一巻での出番はなく、そのためイラスト化もされていないのだ。
しかし、そのピラールがラウルと絡むことはなかった。
あの夢を見てから、何かしらの変調が起きるのではないかと密かに戦々恐々としていたのだが……どうやら杞憂に終わったようだ。
「……とりあえず、何事もなく終われそうかな」
俺は安堵のため息を漏らす――が、まだ心から安心できるわけじゃない。ラウルとの絡みはなかったが、ピラールの同行は掴んでおいた方がいいだろう。
この後の学生寮説明の際に、この大勢いる新入生の中で誰がピラール・アゼヴェードなのかを把握しておく必要があるな。
何ひとつ問題が浮かぶことなく、静かに終わった入学式。
新入生たちは学年主任を務めることになったセドン先生の指示に従って、講堂から学生寮へと移動を始めた。
「お疲れさまでした、バレット」
「ティーテ!」
俺も移動しようかと歩きだした時、ティーテに呼び止められた。
思わず足を止めると、ラウルが振り返る。
目が合った瞬間、「先に言っていますね」とアイコンタクトを送ってきて、小さく手を振りながらその場をあとにした。ラウル……しっかり空気が読めるようになっているじゃないか!
「ティーテの方こそ、疲れていないか?」
「私は平気ですよ!」
フン、と鼻を鳴らすティーテ。
すっかり副会長が板についているな。
「あっ、そうだ。実は報告をしておきたいことがあるんです」
「報告?」
「はい。――と言っても、直接関係があるものではないのですが」
「いや、何でもいいよ。気になったことはドンドン言ってくれ」
「で、でしたら……実は、入学式が始まる直前に、ちょっと不思議な子と出会ったんです」
新入生の後を追って学生寮へと向かう道中、俺はティーテから先ほど会ったという「不思議な子」の話を聞いた。
「私は会ったことがないと思うのですが……どうやら、彼女は私と面識があるようで、とてもにこやかに話しかけてきたんです」
「へぇ……人違いとかじゃなくて?」
「私の名前を言っていましたから、それはないと思いますが……」
ティーテは知らないけど、向こうは知っている。
たまにあるよなぁ、そういうの。向こうはめっちゃ親しげに話してくるんだけど、こっちとしては誰だったかすっかり忘れているってことが。そして、いざ名前や役職を聞いてみても、実はそれほど深いかかわりがあった人じゃないってオチまでついているパターンが多い。
ティーテが体験したのもその類と思っていたのだが、
「それから、ちょっとよく分からないことを言っていたんです」
「どんなことなんだ?」
「『あなたは幸せになれたようね』――と」
「!?」
その言葉を耳にした時、稲妻にうたれたような衝撃を受けた。
それってつまり……本来迎えるはずだったティーテの未来を知っている人物ってことか?
「ティーテ! その子は新入生なのか!?」
「た、たぶんそうだと思いますけど……」
俺の変わりっぷりに、ティーテは大きく目を見開いていた。
まさか……俺の他に……原作の流れを知っている者がいるってことなのか!?
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