【コミカライズ第1巻発売記念】番外編・ある日のメイド三人衆
「それじゃあ、いってくるよ」
「「「いってらっしゃいませ」」」
主人であるバレット・アルバースの登校を見送ったマリナ、プリーム、レベッカの三人はすぐさま部屋の窓へと移動。
そこから、寮の近くで待ち合わせをするバレットとティーテのやりとりを遠巻きに眺めながら、ため息をついた。
「変わられましたね、バレット様」
マリナが呟くと、他のふたりは深々と頷く。
「本当に……」
「ティーテ様も嬉しそうにゃ!」
バレット・アルバースという少年を幼い頃から知っている三人にとって、今の彼はまるで外側だけそのまま残して、中身はまるで別人になってしまったように感じる。
だが、それはとても喜ばしいものだというのが三人の共通認識だった。
それまでのバレットの言動は、目に余るものがあった。
自分たちメイドに対する態度もそのひとつに含まれる。
ただ、貴族の中にはメイドや執事に以前のバレットのような態度をする者もいるというのは三人とも噂で耳にしている。
あのできた両親と姉が身内としてすぐそばにいながら、なぜバレットはあんなにもねじ曲がった性格になってしまったのかとやきもきしていたが、今ではそのような心配は遠い過去の遺物となっている。
「さあ、早速仕事に取りかかりましょうか」
「そうですね」
「にゃ~!」
バレットとティーテが仲睦まじく寄り添いながら学園に向かったことを確認すると、メイド三人衆はそれぞれの仕事をするため散っていった。
仕事、というが、今年になってからその量は激減した。
というのも、昨年までなら大量に持ち込まれていたバレットの私物――それが、今年に入ってサッパリとなくなってしまったため、その管理に忙殺されていた時間が丸々空いてしまったのだ。
おまけに、去年までは「豚のエサ場だろ?」とバカにしていた学生食堂にもよく顔を出すようになった。ラウルやジャーヴィスといった友人ができたということもあるのだろうが、そのおかげで料理する時間も食堂が閉まっている週末だけでよくなった。
そのため、今では午後に優雅なティータイムという名の休憩時間まで設けることができた。
ちなみに、これはバレットの発案である。
「はあ……こんな時間、去年までなら考えられませんね」
「まったくです」
「のんびりできて楽しいにゃ!」
「お気楽ですね、プリームは」
「そうかにゃ~……私はマリナやレベッカとこうして過ごす時間が大好きだけど、ふたりは違うの?」
「……好きですよ」
「右に同じく」
「にゃ~!」
バレットの専属になってから数年間一緒に働いてきた三人の間には、同僚という枠を超えた絆が存在していた。
その日の夕方。
「ただいま」
バレットが帰宅――と、同時に、出迎える三人。
夕食までの間、マリナの淹れたコーヒーで一服するバレットであったが、
「女の子って、どんな物をプレゼントすれば喜ばれるかな」
何やら深刻そうな面持ちで呟くバレット。
その言葉を耳にしたマリナがすぐさま反応する。
「お任せください、バレット様!」
メイドの仕事は今日もまだ終わらない。
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