第203話 ひとり会議
※次回(明日)は番外編を投稿予定!
ピラール・アゼヴェード。
入学式の準備後半は、その名前がこびりついてなかなか集中できなかった。それでも、みんながフォローしてくれたおかげでなんとか作業は無事すべて終了。
「ふぅ……」
明日に備えて、今日はいつもより早く寝ることにした。
作業による肉体的な疲労もあるが、それと同じくらい精神的な疲れもあった。
残りふたりとなった、原作におけるラウルのハーレム要員。
ティーテは俺と順調に仲を深めている。
レイナ姉さんは婚約者のアベルさんと幸せそうにしている。
テシェイラ先生はウォルター先生と交際中。
マデリーンは新しい恋を目指すことにした。
ミーアさんもラウルとは違う相手とお付き合いをしているという。
今のところ、それぞれが原作と違った相手と交際、もしくは探している流れになっている。
そして、今回新たにファンからは「妹枠」として見られているピラールが現れた。
俺はベッドへ仰向けになると、天井を眺めながら原作の流れを思い返す。
平民出身であるピラールの役目は、バリバリの戦闘要員。
ラウルとは戦いを通して友情が芽生え、そのうち、友情が愛情へと変わり――というのが原作の流れだ。これまでに会ったヒロインたちとは、少し毛色の異なるタイプと言っていいだろう。
原作での初登場は、確かラウルが学園を卒業してから――つまり、原作版バレットから追放を言い渡されたあとになる。
残りのふたりは学園卒業後に出会うと思っていたが、そのうちのひとりであるピラールはすでに学園時代からラウルの近くにいたのか。
だけど、ふたりの出会いのシーンでは、確かお互い初対面って感じで描かれていたはず。学園では面識がなかったのか……まあ、今でこそラウルはクラスのみんなとも打ち解けて、うまくやっているし、とうとう生徒会の一員に名を連ねるまでになった。しかし、原作におけるラウルの学園生活は――それはもう暗いものだった。救いといえば、ティーテがいたことぐらいだろうか。
原作とはまったく違う流れになっているこの状況で、ピラールはどのように絡んでくるのだろうか。
ラウルにしても、すでに苦楽をともにしてきたユーリカという恋人がいるわけだから、ピラールの方になびくとは思えない。だとすれば、ミーアさんの時のように、ちょっとだけ顔を合わせてあとはまったく別の道を行くという展開も想定できる。
いずれにせよ、少し注意をしておいた方がいいだろうな。
ピラールが俺たちの関係をかき乱すような存在になるとは思えないが、万が一ということもある。
その時、ふと脳裏によぎったのは以前夢で見た原作版バレットの姿だった。
謎の人物と会話をした後、不敵な笑みを浮かべていたバレット。
一体何を話し、何を得たのか。
そして……何を企んでいるのか。
原作の流れが大きく変わっていくのなら、俺が今いる世界にも何かしらの影響があるのだろうか。もしかしたら、ピラール・アゼヴェードの入学がその序章ではないのか。そんな考えが脳裏をよぎった。
「……いかんな。疲れたせいか、弱気になっている」
俺はパシンと勢いよく頬を叩く。
ピラールが入学してきても、やるべきことは変わらない。
ティーテとの――そして、みんなとの幸せな未来を迎えるため、明日からも俺は絶望のフラグを叩き折る。
それだけに、全力を注げばいい。
ピラールの入学は、俺に改めてその決意をさせる大きなきっかけとなった。
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