第198話 卒業
とうとうレイナ姉さんが学園を卒業する日がやってきた。
式の会場は学園の講堂。
その周辺には、朝早くから参加する者たちで大変な賑わいを見せていた。その数は学園祭の時よりも多いかもしれない。
「凄いな、この賑わいは……」
「去年より人が多いですね」
朝食を終えて寮へと戻る途中、俺とティーテは早朝とは思えない喧噪に包まれた講堂周辺を眺めながらつぶやく。
しかし……去年、か。
バレットの記憶の中に、卒業式絡みのものはなかったなぁ。
印象に残っていないというより、単に興味がないってだけっぽいが。
……そういえば、最近はバレットからの記憶共有がほとんど行われていないな。
これまで、過去の出来事がおぼろげに思い浮かんできたが、ここ数ヶ月単位でその現象は起きていなかった。もうすべての記憶を共有したってことなのか? そんなはずはないと思うんだけど……。
その後、卒業式にかかわるそれぞれの仕事をこなすため、俺とティーテは一旦分かれて持ち場へと向かう。
ちなみに、俺の担当は照明係。
テシェイラ先生謹製の鮮やかな発光石に魔力を込めて、卒業式を演出する。
これが新生徒会最初の仕事であった。
「頑張りましょう、バレット様!」
「おう」
ちなみに、照明係は他にラウルも担当している。
思えば、原作だと俺たちは最後まで対立したままなんだよなぁ。それがこうして、同じ生徒会として汗を流す――原作【最弱聖剣士の成り上がり】ならば絶対にありえない光景だ。
そんなことを考えているうちに、学園音楽隊もスタンバイを整え、来賓や在校生も所定の位置についた。
ちなみに、うちの両親も駆けつけており、父上に至ってはすでに目を真っ赤にしていた。これ、式が始まったら倒れたりしないか?
よく見ると、婚約者のアベルさんも出席していた。
わざわざお休みをとって……さすがだな。
「いよいよですね……」
「あ、ああ。段取りはいいな?」
「卒業生が入ってきたら、その列に光が当たるようにする――ですね」
「その通り」
俺たちは最終確認を終えると、互いの拳をコツンとぶつけて成功を祈った。
結論から言うと、卒業式は大成功だった。
まあ、何をもって成功か失敗か判断するのは難しいが、とりあえずすべて段取り通りに進んだってことで成功としておこう。父上も倒れず最後までレイナ姉さんの勇姿を見ることができたみたいだし。
そのレイナ姉さんは、学生代表として挨拶を行った。
大勢の学生や来賓を前に、姉さんは最後まで堂々とした態度で話していく。その凛としたたたずまいは、姉弟の俺から見てもカッコいいと思えるものだった。
卒業式が終わると、今度は講堂前の広場で卒業生と在学生、それから来賓や親を交えた最後の交流が始まる。
特にレイナ姉さんの周囲には人だかりができていた。
男女問わず人気の高いレイナ姉さんならば当然だな。
そこへ、婚約者のアベルさんが到着。遠くなのでハッキリと何を言ったかまでは分からなかったが、恐らく、祝福の言葉を贈ったのだろう。それに対し、レイナ姉さんは口元を手で押さえながら目に涙を溜め、しばらくするとアベルさんに抱き着いた。
原作では叶わなかった、婚約者アベルさんとともに歩む未來。
あの嬉しそうな顔を見ていると、やっぱり……姉さんにとっては、ハーレム要員になるよりもこっちの方がトゥルーエンドって感じだな。
レイナ姉さんとアベルさんには幸せになってもらいたいものだ。
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