第197話 姉レイナの想い

 姉さんたちの卒業式まで、いよいよあと一ヶ月後に迫った。


 この頃になると、俺は授業後に生徒会室を訪れる機会が多くなり、姉さんからの引き継ぎ作業に汗を流している。

 しかし、一年間の生徒会活動でこれだけの書類……作業量も膨大だし、学園騎士団長との両立はなかなかにハードなようだ。

 ただ、これらの仕事を俺がひとりでこなしていくわけじゃない。

 学園長から、生徒会役員のメンバーが決定したという知らせも受けていたのだ。


 その人事だが、最大の魅力は何といっても副会長。

 ここに、なんとティーテの就任が正式決定したのだ。


「わ、私が副会長ですか!?」


 ティーテ本人はとても驚いていたが……冷静に考えたら妥当な人選だよな。成績は文句なしに優秀だし、原作における将来は聖女として英雄視される存在――今、その片鱗がチラチラと見え始めているのだ。どうやらアビゲイル学園長はその気配を感じ取って、ティーテを採用したらしい。お目が高い。


 その他でいうと、会計にうちの光属性クラスから、委員長のクライネ・フォズロードが選ばれた。

 いつも冷静で凛とした態度のクライネだが、さすがにこの一報を聞いた時は驚きのあまり放心状態となっていた。しかし、恋人(?)のメリアはとても嬉しそうにしていたし、本人もヤル気はあるだろうから、落ち着きを取り戻せれば大丈夫だろう。


 ちなみに、クライネはレイナ姉さんの熱狂的なファンらしい。

 以前俺に突っかかってきていたのは、転生前までのバレットがあまりにもクソすぎるっていうのもあるが、そんなどうしようもない男が、憧れの先輩の弟であるということも受け入れがたく、態度は最悪だった。

 それも、最近はだいぶ軟化してきた。

 この生徒会入りをきっかけに、よりよい信頼関係を築きたいものだ。……あくまでも友人としてね。


 あと、書記としてラウルが生徒会入りした。

 大陸でも稀有な魔剣使いとして、彼を騎士団へ入れたいと願う聖騎士クラウスさんからの要請を受けた学園長が、貴族とのかかわりも多い生徒会入りを決定したのだ。

 さらに広報には、かつてバレットのパシリとして書記のラウルをいじめていたが、今ではすっかり良き友人となっている商人のパトリックが就任した。


 

 ――以上、俺を含めた五名が、新生アストル学園生徒会として始動する。


「頼もしい限りだ」

「「えっ?」」

 

 生徒会室で書類整理を手伝っていた俺とティーテを見ながら、「生徒会長」と書かれたプレートが置いてあるデスクに両肘をつく姉さんがボソッと言う。


「急にどうしたの?」

「いや、何……学園長から次期生徒会長をバレットにすると告げられた時、もちろん嬉しさもあったが、同時に不安もあったんだ」

「うっ……確かに、俺は姉さんに比べたらまだまだだけど……」

「そうじゃない。誕生したばかりでノウハウも何もない学園騎士団の初代団長というだけでも激務だろうに、こうして生徒会長をやるというのは……おまえの心身に悪影響が出ないか不安だったんだ」

「姉さん……」


 そこまで俺のことを考えてくれていたのか……。


「だが、ティーテがいれば大丈夫だな」

「えっ? 私ですか?」

「そうだ。君がしっかりバレットを支えてくれている――それを改めて知ることができてよかったよ」

「はい! これからもバレットを支えていきます!」

「はっはっはっ! 本当に頼もしいな! これで私も安心して卒業できるというものだ!」


 そう言うと、姉さんは満足そうに笑った。

 ――きっと、姉さんにも明るい未来が待っている。

 原作では亡くなってしまうアベルさんも生きているしね。


 ……切に願うよ。

 姉さんにも幸せが訪れることを。

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