第195話 提案

「あなたにある提案をしたいの」

「て、提案……?」


 その言葉に、俺の背筋は思わずピンと伸びる。


「そんなに身構えなくてもいいわよ?」


 学園長は笑顔でそう言うが……それは無理というものだ。この人は軽いノリでとんでもないことを提案してくるタイプだし。どんなとんでもないことを言われても大丈夫なように精神的な準備をしておかないと。


 言い聞かせるように心の中で呟きながら、俺はアビゲイル学園長の次の言葉を待った。


「もうすぐ、あなたのお姉さん――レイナ・アルバースが卒業するわね」

「え、えぇ」


 今年が学生でいられる最後の年であるレイナ姉さん。

 一応、進路は騎士団で内定しているそうだ。

そのためか、最近は剣の鍛錬に余念がない。

でも、生徒会長として学生たちのことを真剣に考えて今まで行動してきた姉さんにとって、人々の安心を守る騎士という職業は天職なんだと俺は思う。


 それともうひとつ――学生でなくなれば、いよいよアベルさんとの結婚も近づいてくるだろう。

 原作【最弱聖剣士の成り上がり】では、バレットの迂闊な行動によりアベルさんは亡くなってしまう。失意のどん底にいた姉さんは、その後いろいろあって主人公ラウルのハーレム要員に落ち着くが……この世界ではアベルさんと結ばれたようで何よりだ。


 ――って、なんでまた姉さんの話が出てきたんだ?

 その提案とやらに姉さんが関係していると?


「ね、姉さんが何か?」


 恐る恐る尋ねると、学園長は「ふっ」と小さく笑ってから――とんでもない提案を俺に持ちかけた。


「彼女は現生徒会長だが……次の生徒会長は君がやってみない?」

「えっ!?」


 お、俺が生徒会長!?

 あの嫌われ者だったバレットが!?

 原作なら絶対にあり得ない事態だぞ!


「お、俺が……生徒会長ですか?」

「えぇ。適任だと思うの。最近のあなたはとても頑張っているし、この一年の間に見違えるほど成長したわ」


 成長と言っていいのかどうか……。

 ただ、学園長が俺を生徒会長に推してくれるという事実は、ひとつの成長の証としてもいいんじゃないかな。


 この学園の生徒会長は、選挙などで選ばれるパターンもあるが、中には学園長から直接指名されて就任するケースもあった。かなりレアなケースと聞いていたが……それがこうして実際に起こるなんて。


「あなたは学園騎士団のリーダーでもあるから、多忙になると思うけど……その分、副会長をはじめとする周囲を優秀な人材で固めてしっかりサポートできる体制を整えていくつもりでいるわ。もちろん、私も喜んでいろいろと協力させてもらうし」

「あ、ありがとうございます」


 思わずお礼を言っちゃったけど……これって、俺が生徒会長になるって確定の流れになっているのか?


「それでは、生徒会メンバーの選出もこちらに任せてもらっていいかな?」

「あっ、はい。お願いします」

「では早速取りかかるとしよう。すでに候補者は何名か絞ってあるんだ」


 これはもう揺るぎないな……。



 しかし、俺が生徒会長か。

 姉さんのようにしっかりやれるか分からないが、任された限りは全力で務める。

 これでまた、正しく生きるバレット・アルバースの姿は多くの人々に認識されることになるだろう。


 それと同時に、いよいよ卒業式が近づいてきたのだと実感する。

 とりあえず、まずは姉さんたちからの引き継ぎがありそうだな。


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