第194話 学園長の心配事
アノム地方で起きた大規模な暴動は、騎士団の活躍もあって完全に終息した。
その後、解放された貴族たちから騎士団が事情を聴くことになり、ティーテもそのひとりとして現在は王都へ向かっている。
今回の件で、何かトラウマでもできるんじゃないかと心配していたが、そのような気配は一切なく、いつも通りだった。
ああ見えて、芯の部分は強いんだよな、ティーテって。
一方、犯人一派によって制圧されていた都市も解放され、残された事件の課題といえば主犯格――いわば、この暴動を先導したリーダーを見つけるだけだった。
しかし、これが思いのほか難航する。
なぜなら、捕らえた者たちの誰もリーダーの顔を知らなかったからだ。
「ふざけた話だ……」
その事実を知った時、クラウスさんは呆れたように言い放った。
暴動に加担した者たちはいわゆる貧困層の領民で、大義などはなく目先の金銭に釣られて暴動に手を貸したことが発覚。さらに、それ以外の者たちは雇われのいわば傭兵であり、こちらも金に目がくらんでの犯行だった。
つまり、今回の事件において、その真の動機は実行犯の誰にもなく、なぜこのような事態になったかは謎のままだった。
しかし、騎士団は真相に迫るために必要な者を見極めていた。
そう――学園OBのマット・ユロフスキーだ。
すでに騎士団は独自の隊を編制し、彼の行方を追っている。
この辺の仕事は俺たち学園騎士団にとって管轄外。
専門家に任せて、いつもの学園生活へと戻る。
――が、俺はその前にひとつやらなければならないことがある。
そう。
アビゲイル学園長への報告だ。
「そう……学園の者が手引きしていた可能性があるのね」
聖騎士クラウスさんと副団長のジャーヴィス、そこに俺を含めた三人で学園長へ今回の報告を行った。
やはり衝撃を受けたのは暴動グループの中に学園OBがいたことだった。
「不覚だわ……」
「学園長、あなたがそこまで責任を感じることはない」
「そ、そうですよ!」
「僕もそう思います」
励まそうとするクラウスさんに、俺とジャーヴィスが乗っかる形で声をかける。学園長はちゃんと学生たちのことを考えてさまざまな取り組みを行ってきた。それを知っているからこその言葉だった。
「そう言ってもらえると救われるわ」
ようやく学園長にいつもの調子が戻った。
以前、ティーテは「学園長は学生にとって太陽のような人」って言っていたけど、確かにその通りだな。学園長が曇っていると、学園全体に影が差すって感じがする。
それから、クラウスさんは改めて現在分かっている範囲で事件の経緯を説明。
犯人だけでなく、人質側にも学生であるティーテが巻き込まれたという事実があったため、その報告も行ったが、無事に戻ってきたことを知ると安堵のため息を漏らした。
そして、ひと通りの報告を終えて、学園長室を立ち去ろうとした時だった。
「あっ、悪いがバレットだけは残ってもらえる? ちょっと伝えたいことがあるの」
「? わ、分かりました」
学園長が直々に俺へ伝えたいこと?
一体何だろうか。
クラウスさんとジャーヴィスを見送ってから、学園長へと向き直る――と、その表情は真剣そのものだった。
「単刀直入に言うわね」
コホン、と咳払いをひとつ挟み、学園長は俺にある提案をした。
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