第193話 戦果報告

 囚われていた貴族たちを解放した後、騎士団の拠点となっているテント群へと戻ってきた俺たちは、聖騎士クラウスさんへ報告をする一方、戦況について話を聞いた。


 ちなみに、クラウスさんのいるテントへは学園騎士団のリーダーである俺と、副団長を務めるジャーヴィスが向かった。

 早速、ヘイウェル家での人質解放に関する報告をすると、


「ご苦労だったな」


 クラウスさんは俺たちの労をねぎらう言葉をくれた。

 しかし、暴動を起こしたグループの中にアストル学園のOBがいたことを耳にすると、「なんだと!?」とひどく動揺していた。自身もまたアストル学園OBであるクラウスさんにとっては、相当ショックな報告だったようだ。


「学園の卒業生がそのような……嘆かわしいな」


 大きなため息を漏らしつつ、クラウスさんは目を閉じて天を仰いだ。


「ジャーヴィス、その卒業生とやらの名前は分かるか?」

「確か、マット・ユロフスキーだったかと」

「! ユロフスキーか……」


 どうやら、クラウスさんも知っている学生だったらしい。


「……ジャーヴィス」

「はい」

「ともに委員会で活動する機会があったという君の目から見て……マット・ユロフスキーという男はどんな学生だった?」

「お世辞にも素行が良かったとは言えませんね」


 ためらいもなくジャーヴィスがそんなことを言うなんて……こりゃ相当ひどかったみたいだな、そのマット・ユロフスキーってヤツは。

 だが、そんな不良学生にも、他者より優れていた部分はあったようだ。


「しかし、彼は平民でありながら学園祭の武闘大会に二年連続で出場している。私も彼の戦いぶりを昨年目の当たりにしたが、得意とする槍術の腕は素晴らしかった」

「確か、戦績は二戦二勝でしたね」


 ということは……出場して負けなしってことかよ。


「素行の悪さはあったにせよ、その実力は本物だったというわけだ」

「ですが、今は見る影もありませんでした。彼はろくに戦いもせず、自軍の旗色が悪いと分かると一目散に逃げだしたのです」

「ふむぅ……」


 ジャーヴィスからの報告を受けたクラウスさんだが……どうにも納得していないように見える。

 それは俺も同じだった。

 相手はあの聖騎士クラウスさんが一目を置き、素行の悪さを承知の上で学園祭の舞踏会に代表として選出されるくらいだ。いくら卒業後に鍛錬を怠っていたにしても、それだけの実力を持った者があっさり引き下がるだろうか。なんだったら、なぜ人質のいる屋敷の警備なんて下っ端みたいな仕事をしているのか……謎が多いな。


「これは……一度ヤツの関係者を洗ってみる必要がありそうだ」


 クラウスさんは大きく息を吐きだす。

 心労が絶えないって感じだ。


「それと、マット・ユロフスキーの件はアビゲイル学園長にも報告しておかなくてはならないだろう。――バレット」

「はい」

「学園長への報告は後日改めて行うが……君も同席してくれ。現場での状況なども含め、報告書の作成も頼む。日程については追って知らせよう」

「分かりました」


 ……なんか、本当に騎士団の人間になったみたいだ。

 というか、このままいけば、やっぱり俺は騎士団所属になるのかな。 

 ――いや、やっぱりここはアルバース家の嫡男として当主を受け継ぐために父上の仕事を手伝うのか……いずれにせよ、進路について真剣に考える時期が近づいてきているってことらしい。




 その後、俺たちはクラウスさんから騎士団についての話を聞いた。 

 なんでも、暴動グループが拠点としている町は制圧目前まで来ているらしく、夜が明け次第最後の大攻勢を仕掛けるという。

 人質解放という任務を果たした俺たちはその大攻勢に参加はせず、夜明けと同時に学園へ向けて帰還することとなった。もちろん、ティーテも一緒に。


 人質事件はこうして解決したが……学園を揺るがす新事実も発覚し、まだまだこの事件は尾を引きそうだな。

 そう感じながら、俺とジャーヴィスはクラウスさんのテントを後にした。

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