第189話 考察
ティーテたちを救いだすための作戦決行が迫る中、俺たちは待機を指示された場所に集まって体を休めていた。
そこは、暴動を起こした犯人一味が立てこもっているとされるこのアノム地方の領主が住む屋敷が見渡せる場所。距離はそれほど離れておらず、見張りの位置も完璧に把握できるが、向こうからは死角になっている位置だ。
そこで、俺はこれまでの経緯を大まかに振り返ってみる。
まず、このアノム地方を治めているのはヘイウェル家という貴族だ。
正直言うと、うちやティーテのところのエーレンヴェルク家に比べると、領地も発言力もない、弱小貴族だ。
ところが、最近になってそのヘイウェル家に異変が起きたことを、俺は移動中にジャーヴィスとマデリーンから聞いた。
「ヘイウェル家は……僕たちの穴埋めとなった」
「穴埋め?」
今ではもうなくなってしまったが、ジャーヴィスのレクルスト家やマデリーンのハルマン家――このふたつは領地も大きく、国政への影響力も強かった。
しかし、学園祭のあとに発覚した数々の不正が原因で権力は消滅。その代わりとして、ヘイウェル家が一部の領地を引き継ぐ形となったのだ。
「今回の事件と関係があるのでしょうか?」
「今の段階では何も分からないが……」
マデリーンとしても、自分の家が絡んでいるかもしれないと分かったら、神妙な面持ちになった。
それと、これはさっきクラウスさんから聞いた話だが、ヘイウェル家の当主はエーレンヴェルク家の当主――つまり、ティーテの父親に相談事があったそうだ。
前のパーティーに参加できなかったお詫びとして、家族全員を招待し、もてなしていたそうだが……まさかこんな事態になるとは。
「敵の狙いはなんだと思う?」
「うーん……暴動って話だったけど、要求とかは特にないんだよね?」
「えぇ……それが逆に不気味だって、みんな噂をしていたわ」
アンドレイ、ラウル、ユーリカの三人はこの事件を引き起こした連中の狙いについて話し合っていた。
今回の件でもっとも不可解なのはそこだ。
彼らは一体何をしようとしているのか……それが分からない。
貴族を開放するために身代金を用意しろとか、そういった要求が一切騎士団側に届いてこないのだ。
果たして、彼らの狙いとはなんなのか。
「バレットはどう考える?」
不意に、ジャーヴィスがそう尋ねてくる。
「……見当もつかないよ」
それは本音だった。
わざわざ貴族を人質にするなんてリスキーな方法を取って、何も要求してこない。かといって、近づこうとした俺たちを全力で阻止しようとする――彼らの行動は謎だらけだ。
どうしたものかと悩む俺たちをさらに悩ませる事態が起きた。
それは――
「あっ!」
屋敷の方を見張っていたユーリカが突然叫んだ。
静かにするよう注意しようとしたら、何やら凄い顔で屋敷を指さしている。
そちらへ視線を移すと――
「なっ!?」
今度は俺が声をあげてしまい、慌てて手で口を覆う。
なんと、屋敷二階のテラスにティーテの姿があったのだ。
他のみんなも緊急事態に気づき、息を呑む。
テラスに出たティーテだが、辺りをキョロキョロと見回している――と、屋敷の庭を見張っている敵兵が、ティーテのいるテラスの真下へと移動してきた。それに気づいたティーテは慌てて顔を引っ込める。
「ど、どうなってんだ!?」
「分からないが……とにかく緊急事態だ」
俺は聖剣を手に立ち上がる。
敵兵に見つかる前にティーテを保護しないと!
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