第188話 到着
俺たちは馬車を襲撃してきた者たち蹴散らし、数名を情報提供者という形で合流地点へと連行していった。もちろん、他の連中は拘束魔法で全員身動きを封じてある。あとでまとめて監獄送りとなるだろう。
合流地点へ到着した時にはすっかり日も暮れ、辺りには夜の闇が迫ってきている。
「思ったよりも大規模戦闘だったようだな」
早速、隊のまとめ役を務める聖騎士クラウスさんへ報告を行った。
そしてさっきの言葉――うん。俺も同感だ。
ユーリカの話では、今回の事件……ただの暴動だったはず。それなのに、百人を超える人数をどうやって集めたのか。
中にはしっかりと訓練を受けたであろう傭兵っぽいヤツもいたし……これは、一筋縄じゃいかないかもな。
俺は報告を終えると、一旦俺たち学園騎士団用のテントへと戻ってくる。
すると、テント内にいたメンバー全員の視線が一気にこちらへと向けられた。
「どうだった?」
そう口火を切ったのはジャーヴィスだった。
「とりあえず、さっきの騒動については報告をしたけど――クラウスさんは驚いていたよ」
「まあ、あれだけの人数が隠れていたとあっては驚くのも無理はないか」
アンドレイは仕方ないって感じに言っているが――実際、クラウスさんが驚いたのはそれ以上に、俺たち学園騎士団の力についてだろう。
「クラウスさんは言っていたよ。本当によくやったって……あの数を相手に無傷で勝利するのは並大抵のことじゃないとも褒めていたぞ」
「私たちにかかればあれくらいワケありませんよ」
ドヤ顔で語るマデリーン。
まあ、一理ある。
なんだったら、ラウルひとりでも蹴散らせただろうな。
そのラウルだが、何やら神妙な面持ちとなっている――かと思えば、突然にんまりと笑いだした。
「どうかしたか、ラウル」
「ハッ!? す、すいません! こんな一大事に笑顔だなんて……」
ラウルからすれば、ティーテの安否が気遣われる状況で笑っているなど言語道断――って感じなんだろうが、ユーリカの話では安全な場所にいるみたいだし、取り乱し、暴走しても事態は好転しないだろう。
時には笑みがこぼれるくらいの心のゆとりはほしい。
冷静に物事を対処していくためには、必要なことだと思う。
――というような内容をラウルに伝えると、彼はゆっくりと語り始めた。
「……不謹慎だということは重々承知しているのですが――今こうして、みんなとひとつのことを成し遂げようと力を合わせているその中に、僕がいるという事実が……その……嬉しくてつい」
はにかみながら語るラウル。
そうか……原作【最弱聖剣士の成り上がり】ではずっと暗い学園生活だったものな。
もしかしたら、その反動で卒業後はハーレム形成を?
……なくはなさそうだが。
とにかく、
「ラウル」
「は、はい! 申し訳ありません、バレット様! ティーテ様が一大事だというのにこのような自分勝手なことを!」
「いや、大丈夫だよ。むしろ安心した」
「えっ?」
「ラウルが今の生活を楽しいと思えてくれているなら、それでいい」
「バレット様……」
俺はラウルの肩へ手を添えると、そう告げた。
ラウルは目尻に涙を溜め、それを腕で乱暴に拭うと「はい!」と力強く返事をした。
その光景を、他のみんなは穏やかな表情で見守っている。
いい雰囲気となったところで、俺は明日のスケジュールを伝えた。
これから、クラウスさんたちは暴動を起こした組織の幹部が集うというアノム地方の中枢都市へと乗り込む。
一方、俺たちは今日の活躍を見込まれて、ティーテたち貴族の奪還に向けてとある貴族の屋敷へと向かうこととなった。
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