第185話 ティーテの危機

 ウォルター先生に案内されて俺たちがやってきたのは学園長の部屋。

 中に入ると、


「おっ?」

「むっ?」


 すでにジャーヴィスとアンドレイが待っていた。

 どうやら俺たちよりも先に事情を説明されているらしく、ともに表情がどこか暗く感じる。さらに、その奥にあるイスには、ユーリカが座っている。こちらの表情も暗いが――それより気になったのが、その場にユーリカがいるという事実だった。


 ユーリカはいるのに、ティーテはいない。

 この事実が、俺を震わせた。


「ユーリカ!?」

「バ、バレット様!?」


 ビクッと体を強張らせたユーリカは、俺を視界にとらえた瞬間、目にいっぱいの涙をためて頭を下げた。


「申し訳ございません! 私がついていながら……こんな……」

「お、落ち着け、ユーリカ。何があったのかゆっくり説明を――」

「それはこちらで行うわ」


 ユーリカをなだめている俺に声をかけたのは、この部屋の主でもあるアビゲイル学園長であった。

 その場に泣き崩れたユーリカをラウルに任せて、俺は学園長の前に立つ。


「一体……何があったんですか?」

「……どうか、取り乱さずに聞いて頂戴」


 学園長はそう念押しして、事態の説明を始めた。

 それによると、ティーテとご両親が向かったアノム地方で大規模な暴動が発生。ティーテたちは訪れた領主の館にいて無事だというが、それもいつまでもつか分からない。そこで、ユーリカが事態を知らせに単独で脱出を図り、こうして学園までたどり着いたのだという。


「ティ、ティーテが……」


 震えが止まらない。

 ユーリカの話では安全な場所に避難しているというが……


「本当に申し訳ありません、バレット様」

「……ユーリカは何も悪くない」


 俺は腰に携えた聖剣へと手を伸ばした。


「バレット……そこまでにしておきなさい」


 学園長に諭されて、俺はハッとなる。

 もう少しで、聖剣の力を開放し、ティーテのいるアノム地方へと突っ込んでいくところだった。


 そう止められたが……やはりこのままというわけにはいかない。

 他のみんなも同じ気持ちのようで、複雑な表情を浮かべていた。

 そこへ、


「……どうやら、来たようね」


 学園長がニッと笑みを浮かべる。

 直後、ドアをノックしてからある人物が部屋へと入ってきた。


「久しぶりだな、アビゲイル」

「えぇ。本当に……クラウス」


 姿を見せたのは聖騎士のクラウスさんだった。


「ど、どうしてクラウスさんがここに?」

「君たちを迎えにきたのだ」

「俺たちを?」


 全員が互いに顔を見合わせる。

 誰も、クラウスさんの言葉を理解できていなかった。


「うちの弟子のラウルをはじめ、ここにいる学生たちは精鋭揃いと聞く。――是非ともその力を貸してもらいたい」

「えっ? それって……」

「学園騎士団の役割は学生の安全を守ること。この学園の生徒であるティーテ・エーレンヴェルクが窮地とあっては……黙っているわけにはいかないだろう?」


 ……なるほど。

 そういうことか。


「クラウス、彼らに詳しい話をしてやってくれ」

「ああ。それじゃあ……はじめるか」


 俺たち学園騎士団にとっての初陣。

 きっと、怖くて震えているだろうティーテを必ず救いだしてみせる!

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