第184話 新学期
冬の休みが終わり、通常の学園生活が戻ってきた。
「久しぶりだな」
――とは言うものの、夏に比べたらだいぶ短いので、正直言ってあまり休んだって気はしないな……まあ、その分、イベントは多めだったし、おかげで俺とティーテは次なるステップに進むことができたわけだけども。
「バレット様、荷物の方はこちらで部屋に運んでおきます」
「ありがとう、レベッカ。――あっ、そのバッグは俺が持つよ」
俺はレベッカが馬車からおろした中で一番大きなバッグを担いだ。
「し、しかし……」
「いいからいいから」
「……ありがとうございます、バレット様」
クールなレベッカが見せる柔和な微笑み。
……マリナが言っていたな。
『私たちメイドも、同じ気持ちです』
その言葉が、頭に残っていた。
俺の行いが改善したことで、メイドたちが働きやすい環境になってくれるというなら、喜ばしいことだ。原作での立ち振る舞いを見ている限り、原作版バレットのメイドに対する態度は手に取るように分かるからな。
「――っと、そんなことより」
辺りを見回してみる。
どうやら、まだエーレンヴェルク家の馬車は到着していないようだ。
「早くティーテに会いたいな……」
たまらず、そんな言葉が口をつく。
舞踏会が終わってから二日――その間、俺とティーテは会っていない。正直、あのままエーレンヴェルク家に泊まらせてくれないか願い出ようとしたくらいだ。
残念ながら、ティーテは所用があるということで、次の日から両親とともにアノム地方というところへ出かけたらしい。
しかし……今思い出してもニヤけてしまうな。
雪の舞う中、俺とティーテは中庭で――
「ふふふ……まさにひと皮むけた男とはこのことだな」
「おはようございます!」
「どわぁっ!?」
あの日の出来事を思い出していると、ラウルに声をかけられた。その後ろには、
「何か変なことでも考えていたんですか?」
ジト目でこちらを見るマデリーンの姿もあった。
「そ、そんなことはないぞ、マデリーン」
「だといいですけど」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめるマデリーン。
……後輩とは思えん態度だな。
って、そういえばこのふたり……原作ではハーレム関係じゃないか!
大丈夫なのか?
まだユーリカは到着していないみたいだし……マデリーンがまだラウルをあきらめきれていなかったら……
「…………」
「やだなぁ、先輩。そんな顔で見ないでくださいよ。私、男のことは引きずらないタイプなんですから」
嘘つけ。
原作では引きずりまくった挙句にハーレム要員となったくせに!
「それに、私はもう新しい恋に生きていますから」
「えっ? そうなのか?」
ホッとひと安心――していいのかどうか分からないが、こじれることはなさそうなのでよしとしよう。
その後もしばらく三人で談笑していたが、やがて話題は未だに到着しないティーテたちのことへと移った。
「それにしても遅いですね」
「ああ……いつもならもうとっくに到着しているはずなのに」
「何かあったんでしょうかね」
サラッと不穏なことを言うマデリーン――と、
「おっ! 三人ともちょうどいいところに!」
何やら慌てた様子で俺たちに駆け寄ってきたのはウォルター先生だった。
……めちゃくちゃ嫌な予感がする。
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