第183話 朝の出来事
「はっ! はっ!」
冬の長期休暇もいよいよ本日がラスト。
俺は朝の鍛錬(素振り)をしながら、これまでのお休みを振り返っていた。
まず、エーレンヴェルク家のパーティーは大成功に終わった。
俺とティーテの仲もさらに次のステップへと進み、これからの学園生活がますます楽しみになってくる。
――が、同時に課題も見つかった。
それは、学園外での俺の評判。
こちらはまだまだ改善の余地がありそうだ。
だが、こればっかりはそう簡単にいかなさそうとも思っている。なぜなら、俺たち学生はなかなか学園郷の外へ出る機会を与えてもらえないからだ。
この辺に関しては、これからいろいろと考えていく必要があるだろう。
それから、パーティーには関係ないことだが――レイナ姉さんの学園卒業も着々と近づいていた。
てっきり、卒業したら婚約者であるアベルさんと即結婚と思っていたのだが、どうやら騎士団に入る予定らしい。
確かに、原作でも俺――というか、バレットが卒業し、勇者として旅に出ている年になっても、ふたりはまだ結婚していなかったな。
これに関しては、姉さんたっての希望らしい。
幼い頃から、騎士に憧れていたからなぁ。そのためにこれまで頑張ってきたわけだし、それに対して理解を示したアベルさんの懐の広さにも驚かされた。
「ふぅ……」
少し休憩しようと、剣を止めた時だった。
「お疲れ様です、バレット様」
そう言って、俺にタオルを差しだしたのはマリナだった。
「い、いつの間に……」
「常におそばで見守っているのがメイドですから。さあ、お体を冷やさないうちに」
「うん。ありがとう」
気配さえ感じなかったのはさすがというべきか……ともかく、差しだされたタオルを手に取り、汗を拭く。真冬とはいえ、あれだけ動けばさすがに暑くもなるな。
「あの……バレット様……」
「何?」
「ありがとうございました」
「?」
いきなりお礼を言われた。
普通、タオルを持ってきてもらった俺がマリナへ礼を言うべきなのだが――どうやら、タオルの件ではなさそうだ。
「昨夜、ティーテ様が『幸せです』とお話になられましたよ?」
「あ、う、うん」
そこまでバッチリ聞かれていたのか。
あの時は三人とも濁していたが……どうやら、俺とティーテが会場からいなくなってからすぐに追いかけてきたみたいだな。
早速いじられるのかと身構えていたら、
「私たちメイドも、同じ気持ちです」
まったく別角度の話になった。
「お、同じって……」
「バレット様は私たちメイドにも優しく接してくださるようになりました。そのおかげで、この一年はとても楽しく――幸せでした」
目を細めながら、マリナが言う。
……そうか。
彼女たちもまた、原作版バレットの被害者でもあったんだな。
「……俺は正しく生きようと思っているだけだよ」
「それが嬉しいのです」
マリナはハッキリと言い切った。
面と向かって言われるのは、さすがにちょっと照れる。
「そ、そろそろ屋敷へ戻るか」
「そうですね。あまり長く一緒にいて、浮気を疑われてはいけませんから」
「う、浮気って!?」
「冗談ですよ」
ふふふ、と小さく笑うマリナ。
……なんだよ。
結局いじられるんじゃないか!
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