第181話 バレットの決意
アンドレイとジャーヴィス――その関係の進展については、当分の間は目立った動きがなさそうだ。
養子入りの話が出た当初、動揺しまくっていたアンドレイだが、ジャーヴィスが悩んでいることを知ると、彼女の意思を尊重すると落ち着いた態度で俺たちに告げた。
その様子を見る限り、アンドレイは精神的にも成長したんだなぁと実感する。
……まあ、この世界では同級生である俺だが、中身はもうちょっと年上だからこそ分かるんだ。
自分の気持ちが先行するあまり、暴走に近い言動があったアンドレイだが、ジャーヴィスの悩みを受け止めようと覚悟を決めた時の顔は、これまでになかった感情が沸き上がっているように映った。
これが、大人の階段をのぼるってヤツなのかな。
夜になり、パーティーはいよいよ佳境に入った。
――と、いっても、ただ単にみんながそれぞれ思い思い過ごしているという……あれ? 昼間の時と変わらないな。
「にぎやかですね、バレット様!」
「そうだな……」
瞳を輝かせているラウルの横で、俺は心ここにあらずといった感じで周囲を見回していた。
もちろん、追っているのはティーテなのだが……肝心のティーテは学園の友人をはじめ、エーレンヴェルク家と縁のある名家の人々と談笑をしていた。
そんなティーテを眺めていると、
「ラウル~♪」
仕事を終えたユーリカが、ウキウキしながらこちらへとやってくる。
「ユーリカ!」
それを発見したラウルもウキウキ顔で駆けだそうとしたが、一瞬こちらを見てから動きが止まった。
「行って来いよ、ラウル」
「! あ、ありがとうございます!」
ラウルは深々と頭を下げながら感謝の言葉を述べる。
……別に、感謝されるようなことはしていないんだけどなぁ。
その時、ふと周りの視線に気がついた。
好意的なものというより、どちらかというと敵意にも似た視線。
恐らく、夜からこの会場に来た者たちの視線だろう。
昼間はティーテとともにいろんな人たちのもとを訪れて誤解をとくという意味も込めて話し合ったが――今は違う。
己の力に溺れるアルバース家のバカ息子。
それが、大方の評価だろう。
実際、去年まではそれで何も間違ってはいなかった。
――けど、今は違う。
もし……このまま結婚したら、俺の存在自体がエーレンヴェルク家に迷惑をかけてしまう。
「……変えていかなくちゃな」
学園での評価はガラッと変わったんだ。
冬季の長期休業が終わったら、今度は世間の評価を変えていけるようにしないと。
ただ、これは学園での評価を変える時とはわけが違う。
そもそも、学園に通っていたら、外部と接触できる機会なんて限られているんだよな。外出許可が下りるには下りるけど、そんな短時間で評価を上げることなんてほぼ不可能だろう。
どうしたものか――と、唸っていたら、
「バレット」
聞き慣れた少女の声が聞こえた。
「ティ、ティーテ!?」
「はい、ティーテです♪」
にこやかな笑みを浮かべているティーテ――どうやら、周りに気を遣われてしまったようだな。
「……なあ、ティーテ」
「はい?」
「ちょっと外へ出ないか?」
俺はティーテを夜の庭園へと誘った。
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