第180話 それぞれの想い
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中庭で何やら話し込んでいるアンドレイとジャーヴィス。
その内容が気になり、ティーテとともにこっそり覗き見ることに。
「アンドレイはこの場で思いの丈を……」
「……ここが勝負所とにらんだのかもしれないな」
そんなことを小声で話しつつ、ふたりの会話を聞き取れるベストポジションへ。
最初は当たり障りのない内容を言い合っていた。
テストが難しかっただの、成績が上がっただの、本当に取り留めのない会話が続いていた。
アンドレイは機をうかがっている。
俺とティーテはそう読んだ。
――が、ここでジャーヴィスが思わぬ行動に出る。
「アンドレイ……君に大切な話があるんだ」
「「「!?」」」
ジャーヴィスから放たれたまさかの先制攻撃。
ここはなんとしても阻止したいところであったが、アンドレイは酸素を求める魚のごとく口をパクパクさせるだけ……何を言っていいのか分からなくなっているな。
そうこうしているうちに、ジャーヴィスは核心に触れた。
「養子縁組の話だが――」
ヤバい。
いっそ俺が踏み込んでやろうかと思ったまさにその時、
「もう少し、考える時間をいただいたんだ」
「……えっ?」
キョトンとするアンドレイ。
俺とティーテも似たようなリアクションだった。
「正直なところ……まだ気持ちの整理がついていないんだ。これから自分がどうするべきなのか――情けない話だ」
「そ、そんなことはない!」
自虐気味に笑うジャーヴィス。
その細い両肩を、アンドレイの大きな手がしっかりと掴む。
「家があんなことになったんだ……すぐにふん切りをつけろって方が土台無理なんだよ」
「ア、 アンドレイ……」
「俺からも親父とおふくろに伝えておく。結論はゆっくり出せばいい。そうだな……卒業するまででも構わない」
「ありがとう……アンドレイ」
ジャーヴィスは嬉しそうに笑った。
何とかきれいにまとまり、ジャーヴィスが庭園を去っていった後、
「アンドレイ」
「!? バ、バレット!? それにティーテまで!?」
こそっと登場した俺たちに驚くアンドレイ。
ひとりだけ残ったから、てっきり俺たちの存在に気付いていたのだとばかり思っていた――が、どうやら物思いにふけっていたらしい。
「もしかして……さっきの――」
「一部始終見ていた」
「そ、そうか……」
アンドレイは気恥ずかしそうに鼻っ面を指でかく。
「……よかったのか?」
俺は率直な考えをアンドレイにぶつけた。
あの場面――アンドレイは自分の想いを告げなかった。
しかし、俺はあの時、アンドレイがヘタって告白をしなかったんじゃなく、しようと思ってもできなかったのではないかと察した。
それについては、
「ジャーヴィス……いっぱいっぱいだったからさ」
アンドレイはそう答えた。
「いつも通り、クールに立ち回ってはいるけど、いろいろなことが短期間に起きていっぱいいっぱいなんだろうなって思った。だから、あの場面で俺が想いを告げたら……」
それはアンドレイの優しさだった。
自分の想いよりも、彼はジャーヴィスを優先したのだ。
「まあ、これからもチャンスはあるさ」
「応援していますよ、アンドレイ」
「……ありがとうよ」
俺とティーテはそれぞれ左右の肩をポンと叩く。
アンドレイの戦いは、まだ始まったばかりだ。
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