第179話 まだまだ

 俺とティーテがパーティー会場へたどり着くと、先ほどよりも大勢の来客でいっぱいになっていた。


「こ、こんなにたくさん……」

「今年はお父様やお母様も各所に声をかけたようなんです」


 ほう……それは何か理由があるのかな。

 昨年――まだ原作版バレットだった頃の記憶が残っているが、その時はかなり小規模だったはず。コルネルやクライネといったティーテの友人など、学園絡みの参加者を除いてもそれほどの人数がいるわけでもなく、本当にこぢんまりとしたパーティーだったが……今年はどうも様相が違う。


 どうしてだろうか、と考えているうちにティーテのご両親と遭遇。


「おぉ! 似合っているじゃないか、ティーテ!」

「バレットもエスコートお疲れ様」


 にこやかな表情で話しかけてくれたアロンソ様とリリア様。

 ふたりが楽しげにティーテと話している姿を見て、謎が氷解した気がする。


 たぶん、去年までは呼びたくても呼べなかったんだな。


 原因は間違いなく俺――というか、原作版のバレットだろう。

 今の俺にとってはどうでもいいことだが、この世界の貴族には家柄によってランク分けのようなものがされている。

それによれば、俺の家とティーテの家では相当な開きがあるようで、俺が聖剣使いとなり、英雄視されるようになってからはさらにその差は広がっていった。


 だから、エーレンヴェルク家の人たちはバレットに何も言えなかった。

 原作【最弱聖剣士の成り上がり】では、ティーテが俺のもとを離れてラウルと一緒になることを決断した際、両親はその判断を後押ししたが、それは俺の行いによってアルバース家の評判がガタ落ちしていたこととも関係があるのだろう。


 でも、今はその心配はいらない。

 アロンソ様もリリア様も、春から起きた俺の大異変を通してそれを察し、いろんなところに声をかけたのだろう。去年だって、本当はこれくらいの規模でやりたかったはずだ。


「おぉ、あれがアルバース家のご子息とエーレンヴェルク家のご令嬢か」

「とてもお似合いですわね」

「いやいや本当に」

「若い頃を思い出しますな」


 パーティー出席者の多くはこれまでに面識がない。だが、主催者であるエーレンヴェルク家とは懇意にしているため、令嬢であるティーテの婚約者――つまり、俺に興味を抱く者が多かった。


 しかし、去年までの俺の悪評はすでに至る所に知れ渡っており、そのためか、最初のうちは警戒心を見せる者もいたが、俺が紳士的な対応を心掛けて会話をしていると、やがてひとり、またひとりと俺たちふたりのもとを訪れて話をしていった。


 だが、このことで、俺は改めて、「バレット・アルバース」という人間に辟易する。

 どこまで悪辣な行いを続けたら、ここまで警戒される存在となるのか……学園での評判は盛り返してきたが、一歩外に出ると俺はまだ原作版バレット・アルバースなのだと思い知らされた。

 


「ふぅ……」


 しばらく話し込んだ後、俺は広間のソファに腰かけた。


「お疲れ様でした」

「いやいや、まだまだこれからだよ。本番は夜の舞踏会だからね」

「ふふふ、そうですね♪」


 俺の横に座り、楽しそうに笑うティーテ。

 すると、


「あら? あそこにいるのは――ジャーヴィスとアンドレイ?」


 ティーテの視線の先。

 エーレンヴェルク家の屋敷の中庭にある噴水の近くで、ジャーヴィスとアンドレイが向かい合っている姿が見えた。


「アンドレイ……」


 まさか……もう勝負に出る気か?


「……ティーテ、中庭に行こう」


 俺はティーテを誘い、ふたりの様子をもっと近くで探ることにした。

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