第178話 ふたりのペース

 にぎやかな大広間から離れると、ユーリカの案内で俺はティーテの自室を目指していた。

 ティーテの自室……か。

 そういえば、来るのは初めてか?


 ……そう思うと、なんだか緊張してきたな。

 別に、まだナニをするってわけじゃないけどさ。

 

 そんなことを考えていると、昨日の話を思い出す。

 ティーテとの結婚話――将来への具体的な話が出てきたせいか、顔を合わせづらいな。


「ティーテ様のことをお考えですか?」

「えっ?」

「なんだか、心ここにあらずといった様子でしたので」


 ふふふ、と小さく笑いながら、ユーリカがそんなことを尋ねてくる。


「顔に出ていたかな?」

「顔どころか、全身からオーラが漂っていましたよ?」

「そ、そんなにか!?」


 俺……そこまで露骨に態度に出ていたか。


「そういうユーリカはどうなんだ?」

「私ですか?」

「ラウルとの仲さ。ティーテ専属メイドの仕事で忙しいだろうけど、長い誤解の末にやっと結ばれたんだ……ある意味、俺たちよりも積もる想いもあっただろうし――」

「~~~~っ!!」


 俺が言葉を終えるよりも前に、ユーリカは耳まで真っ赤になっていた。

 ……分かりやすいな。


「わ、私たちはいたって普通ですよ!」

「そこまで慌てるのは怪しいなぁ……」

「そんなことないです!」


 いやいや、可愛らしい反応を見せてくれるなぁ、ユーリカは。

 ――しかし、少し慌てすぎじゃないか?

 もしかして……本当に何かやったのか?


 そういえば、ラウルは原作【最弱聖剣士の成り上がり】においてハーレム主人公――この世界ではユーリカのみと関係を深めているが……本来であれば、複数の女性と付き合えるだけのスペックがある。その点は、俺よりもスペックが高いと言えるのだ。


 まさか……進んだのか……あんな無邪気な顔をして――俺たちよりも先のステップに!


「バ、バレット様?」

「――ハッ!? ど、どうした、ユーリカ!」

「い、いえ、ティーテ様のお部屋に到着したので――こちらになります」


 ラウルとユーリカの関係について考察しているうちに、目的地に到着していたようだ。


「ティーテ様、バレット様をお連れしました」

「どうぞ、入ってください」


 ティーテからの了承を得て、俺とユーリカは室内へ。

 すると、


「おぉ……」


 思わず足が止まる。

 目の前には、新しいドレスに身を包んだティーテが立っていた。


 このシチュエーション……今までに何度も体験してきた。

 だけど、そのたびに新鮮な驚きを覚える――ティーテの可愛さに!


「あ、あの、バレット――」

「似合っている。可愛いよ、ティーテ」

「ホントですか!」


 間髪入れずに瞳の輝きが増すティーテ。

 うん。

 やっぱり、考えを改めよう。

 俺たちは俺たちのペースで仲を深めていけばいい。

これまでのことを考えたら、今こうしている状況自体が奇跡に近いからな。

 原作の展開が脳裏にちらつくから、どうしても焦ってしまいがちだけど……そんな必要はなかったんだな。


「それじゃあ、会場までエスコートするよ」

「はい♪ お願いします♪」


 俺はティーテに腕を差し出し、ティーテはそこに自分の腕を絡める。

 さあ……楽しいパーティーが始まる。

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