第177話 パーティー直前

 エーレンヴェルク家の屋敷はこれまでにない賑わいを見せていた。

 年末になると行われるこのパーティーには去年も参加した記憶がある……もっとも、その頃はまだ原作版のバレットのままだが。


 その時との一番の違いは、やはり学園関係者が多いことだろう。


 去年もいたにはいたが、コルネルなど一部の友人を招待しただけにとどまっていた。

 

 というのも、俺――いや、原作版のバレットが制限をかけたからだった。

 しかし、当然今年はそのような縛りはない。

 自由に招待をしてもいいとなったら、その数は前年と比較して大幅にアップ。よく見たらテシェイラ先生やウォルター先生といった教職員までいるじゃないか。

……さすがはティーテ。学園での友好関係もだいぶ広まっているな。


「バレット様ぁ!」


 馬車から降りた途端、真っ先に声をかけてきたのはラウルだった。

 さすがにパーティーということで、今日は服装にも気合が入っている。


「やあ、ラウル。その服、似合っているじゃないか」

「ありがとうございます! 師匠に見繕ってもらったのですが……そう言っていただけると嬉しいです!」


 ラウルの師匠――聖騎士のクラウスさんか。

 話を聞く限り、修行も順調そうだし、ラウルにとっても学園生活が楽しく感じられているようで何よりだ。


 さらに、ジャーヴィス、アンドレイ、マデリーン他同期生が次々と到着し、パーティーが始まるまでの間、俺たちは談笑していた。


 ……問題はアンドレイだ。

 ジャーヴィスの迷いを感じさせない晴れやかな表情を見る限り、すでにフォンターナ家への養子入りについて自分なりの答えを出しているだろう。


 ……これは、早急に攻めていかなければならない。

 そう判断した俺は、ジャーヴィスたちが談笑している隙をついてアンドレイにコンタクトをとった。


「アンドレイ……イケそうか?」


 小声で話しかけると、アンドレイは思いのほか落ち着いた口調で話す。


「ああ……問題ない」


 とは言いつつも、顔は強張っている。

 やはり緊張しているのか……。


「チャンスはダンスの時だ。頃合いを見計らって仕掛けろ」

「お、おう……やってやるぞ!」


 アンドレイの瞳に炎が宿る。

 とりあえずは大丈夫そうかな。

 そこへ、


「バレット様」


 声をかけてきたのはメイド服姿のユーリカだった。


「どうかしたのか、ユーリカ」

「ティーテ様がお呼びです。こちらへ」

「ティーテが?」


 本日の主役ともいえるティーテのからの呼び出し……俺としても会いたいと思っていたので嬉しい言葉だった。


「それじゃあ、アンドレイ……健闘を祈る」

「ああ……砕けるつもりで当たってみるさ!」


 本当に砕けてしまってはいけないが……まあ、心情的にはそれくらいの勢いは必要になるのかな。


 若干の心配を残しつつ、俺はユーリカの案内でティーテの待つ部屋へと向かうことにした。

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