第176話 雪の朝

 夜が明け、ティーテの待つエーレンヴェルク家でのパーティー当日を迎えた。


「うぅ……」


 窓から差し込む朝日を浴びて、俺は目を覚ます。

 重い体を起こして窓へ視線を向ければ、寝起き直後のまどろみは吹っ飛んだ。


「おおっ!?」


 見渡す限り一面の銀世界――思わず叫んでしまうほどの光景が広がっている。

 

「夜の間に積もったのか!」


 テンションの上がった俺はすぐに着替えて外へと飛び出した。

 そこで気づいたのだが、雪は未だに降り続けており、まだまだ積雪は増えそうだ。


「凄いなぁ……へっくし!」


 いかん。

 テンションに流されて中庭に出たのはいいが……思っていたよりもずっと寒い。

 

「バレット様ぁ! 風邪引いちゃいますよぉ!」


 遠くからマリナの声がする。

 振り返ると、そのマリナが手に上着とタオルを持ってこちらに走ってきている。


「ごめん、マリナ。助かったよ」

「今日は大事なパーティーの日ですから、体調を崩されないよう気を付けてくださいね」

「心得ているよ」


 アンドレイだけでなく、俺にとっても今日という日は大事な一日となる。

 そんな時に体調不良なんて……絶対に避けないと!


「まもなく朝食の準備が整います」

「分かった。それじゃあ行こうか」

「はい♪」


 俺はマリナとともに父上と母上の待つ部屋へと向かった。




 食後のコーヒーを飲み終えたところで、いよいよ出発の準備に移る。

 今回のパーティーにはうちの両親も出席することになっていた。もちろん、レイナ姉さんも出席するのだが、姉さんは婚約者であるアベルさんと一緒に直接会場であるエーレンヴェルク家の屋敷へ向かうらしい。


 この時期……前世の世界で言うならクリスマスシーズンといったところか。

 そんな時に雪が降るなんて――まさにホワイト・クリスマスって感じだ。

 なんとも縁起がいい。

 今日のパーティー……いろいろといい結果がもたらされそうな予感がするよ。


「バレット様~! 準備が整いましたよ~!」

「さあ、こちらへ」


 プリームとレベッカに呼ばれて、俺は玄関へ。

 

「あれ? さっきよりも雪が降ってる?」

「そうなんですよ~」

「もしかしたら、今日はエーレンヴェルク家から戻ってこられないかもしれませんね」


 それはちょっと心配だな。。

 ただ、父上と母上は「その時は泊めてもらおう」と暢気なことを言っていた。

 両親同士も仲いいからなぁ。

 俺としても、そうなってくれたらティーテとより長い時間一緒にいられるから嬉しいんだけど。


「さあ、参りましょう、バレット様」

「ああ」


 マリナに促され、俺は馬車へと乗り込み、メイド三人娘もそれに続くとゆっくりと進み始めた。


 さあ……どうなることやら。

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