第174話 しばしの別れ

 新作投稿しました!


「言霊使いの英雄譚 ~コミュ力向上のためにマスターした言語スキルが想像以上に有能すぎる~」


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「ざまぁ」、「追放」からの逆転劇がお好きな方はぜひ!


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 学生寮周辺。

 その日は朝からにぎやかだった。


 というのも、今日からいよいよ冬季の連休に入るからだ。

 新年を実家で迎えようとする者がほとんどのため、帰省のために乗る馬車が所狭しと並んでおり、学生たちは荷物の運搬に大忙し。

 ジャーヴィスやアンドレイも朝からせわしなく動いており、学園に残るラウルはそんなふたりの手伝いを買って出ていた。


 もちろん、俺やティーテもそんな忙しい学生のひとりである。


「バレット様! それは私が持ちますよ!」

「大丈夫だよ、プリーム」


 大きなバッグを抱える俺を心配するプリーム。

 その一方で、マリナやレベッカはいつも通り接してくれている。

 こうしていると、学生寮に来た最初の頃を思い出すな……あの時はまだ悪い頃のバレットが定着していたから大変だったよ。今から考えたらホント信じられないな。


 しばらくすると、ティーテの実家――エーレンヴェルク家の馬車も到着した。


「では、明後日にまた会いましょう♪」


 ユーリカと一緒に荷物整理をしていたティーテは、俺を発見すると駆け寄ってきてそう言った。

表情はいつも通り明るいティーテ――だが、俺は見逃さなかった。その瞳の奥には明らかに寂しさが見て取れる。


「ティーテ……」


 自然と、俺はティーテの手を取っていた。


「バ、バレット!?」

「ティーテ……たった二日とはいえ、君に会えなくなるのは寂しいよ」

「! わ、私もです!」


 やっぱり、ティーテも同じ気持ちだったか。

 思えば、学園では常に行動を共にしていたからなぁ。

期間としてはたった二日くらいなので大丈夫だろうと高をくくっていたが……明日からティーテがいないのかと思うとちょっと憂鬱だ。


 そんなことを考えているうちに準備は完了。

 俺たちアルバース組は一足先に実家へと戻ることにした。


「じゃあ、ティーテ……俺たちは先に行っているよ」

「はい♪ 明後日のパーティーが待ち遠しいです♪」


 再び笑顔を見せるティーテ。

 それは心の奥底から見せる微笑みであり、瞳の奥まで明るさであふれている。

 

「よかった……」


 馬車に乗り込み、手を振ってくれているティーテを眺めながら俺は呟く――そして、同じく馬車に乗るメイド三人衆のニヤニヤ顔にも気づいた。


「……何か?」

「「「いえいえいえいえ!!!」」」


 何か言いたそうな表情だが……まあ、大体分かるよ。

 とりあえず、現状の空気には耐えられそうにないので、話題を変えることにした。


「そういえば、レイナ姉さんは?」

「生徒会のお仕事があるそうで、一日遅らせるそうですよ」

「でも、エーレンヴェルク家のパーティーには参加するつもりだと言っていましたよ!」

「恐らく、そのパーティーには婚約者のアベル様とご出席されるのではないかと」


 なるほど。

 アベルさんにゾッコンな姉さんらしいな。

 

 その時、馬車の窓の向こうに広がる学園郷の冬景色が視界に入った。


「もうそんな季節か……」


 学園に来た当初は力強く生い茂っていた木々。

 しかし今は葉を枯らし、枝がむき出しとなっている。

 季節の変化とともに、俺の評価も変わっていった――そんなことを思いつつ、俺たちを乗せた馬車はアルバース家の屋敷へ向けて学園の敷地を出たのだった。

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