第173話 バレットの想いと放課後のひと時
試験が終わり、学園は再び長い休みへと突入する。
学生たちはそれぞれ帰省のための準備に入り、試験期間中とはまた違った賑わいで包まれていた。
「…………」
どこか浮ついた空気の漂う学園内で、俺は緊張していた。
昨日の夜……変なことを考えてしまったからな。
いや、変なことと言ってしまえば語弊がある。
俺が思い描いていたのはティーテとの未来。
この学園を卒業した後――まだ、その進路については何も考えていない。
原作の【最弱聖剣士の成り上がり】では、学園卒業と同時に勇者パーティーとして旅に出ていたが……恐らく、そうはならないだろう。
そもそも、原作において、バレットがどのような経緯をたどって旅に出たのか……それについては触れられていない。それが物語の今後の話の流れに大きくかかわっていると考察するヤツもいたな。
「そういえば……原作って更新されたのか?」
最後に俺が原作を読んだ内容は……確か、ラウルとテシェイラ先生(ハーレム要員)の回だったな。
そのテシェイラ先生も、今はウォルター先生とお付き合いをしているようだし、この流れも原作とはまるで違うな。
……今さら原作を追ったって意味はないか。
もうだいぶ原作とは違った展開になっている。
ジャーヴィスが自分の性別を告白したり、ラウルとユーリカが付き合ったり……もはや原型をとどめていない。
その最たるものは――やっぱり、俺とティーテの関係かな。
原作では愛想を尽かされてティーテは離れていく。
けど、ここでの俺とティーテの関係は良好だ。ラウル自身も、ユーリカといい関係になっているし……原作ではラウルのハーレム要員となる他のヒロインたちも、それぞれ別の相手がいたり、気持ちを切り替えたりしている。
――ただ、一ファンとしては、原作の展開が気にならないといえば嘘になる。
【最弱聖剣士の成り上がり】は……一体どんなラストを迎えるのか。
それはそれで気になるんだよなぁ。
新生勇者パーティーとなったラウルとヒロインたちは、最後に誰と戦うのか。
その「ラスボス」は、この世界にも存在しているのか。
そして、ラウルたちはどういった理由で「ラスボス」と戦うことになるのか。
もしそれが分かれば……こっちでも動きようがあるんだけどな。
「……完結していたら、今後の展開も読めるのに」
「? 何か言いましたか?」
「っ! い、いや、なんでもないよ!」
屋上庭園にて、緑化委員の仕事を手伝っている俺のつぶやきにティーテが反応する。
口に出ていたとは……まずかったな。
「見てよ、ティーテ! 夏に植えたこの子たち、もうすぐ花を咲かせそうよ!」
「わあ……ホントですね!」
「それでさ、ハンス先輩に聞いてみたんだけど……花を咲かせそうなこの子たちは持ち帰ってもいいって」
「ホントですか!? 明日家に帰るけど……馬車に乗るかなぁ?」
コルネルの言葉を受けてテンションが上がるティーテ。
ふたりとも手は泥だらけで、額には汗がにじんでいる。
それでも、本当に幸せそうに笑っていた。
あの笑顔を守るためにも――しっかりしないとな。
この世界は【最弱剣士の成り上がり】じゃない。
俺たちの世界なんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます