第171話 結果発表

 白熱のテストから一夜が明けた。

 いつもは賑やかな学生食堂も、この日は静かなものだ。

 何せ、結果については翌日――つまり今日発表される。

ゆえに、朝から緊張しているのは無理のないことであった。

 中でも……やはりアンドレイは尋常じゃないほど顔を強張らせている。

 手応え的には五分。

 補習のボーダーラインとされる五教科合計得点250点をクリアするには微妙なところと言えるだろう。




 いつも通り、ティーテと共に教室へ。

 コルネルやクライネたちクラスメイトと挨拶を交わすと、廊下の方が何やら騒がしくなってきた。

 どうやら、テストの結果が掲示されたらしい。


「いよいよ、か……」


 なぜだろう。

 俺の手応えとしてはそれなりに手応えがあり、補習は免れただろうという自信はある――それなのに、こうも不安な気になるのは……やっぱり、アンドレイの件だろうな。

 そのアンドレイは大きく深呼吸をし、顔をパンと勢いよく叩いて気合を注入してから教室を出た。


「す、凄い気迫ですね……」

「あ、ああ……」


 俺とティーテはその広い背中を見送りながらそう呟く。

 ……というか、全部終わってから気合入れても遅い気がするんだが……この場合、こうした正論は無粋ってものだな。


 アンドレイのあとを追うように、俺たちも廊下に出た。

 掲示板の前には多くの生徒が集まっており、中にはラウルやユーリカの姿もある。

 俺は自分の点数よりも先にアンドレイの点数を確認した。


 下から数えていき――ボーダーラインの250点間近のところで、

 


【アンドレイ・フォンターナ  249点】



「「あ」」


 俺とティーテの声がピッタリ重なった。

 どうやら、ティーテもアンドレイの点数から先にチェックしていたようだ。

 ちなみに、俺たちふたりの点数と順位は過去最高を更新していた。

 これも毎日行っている勉強会の効果だな。

 


 ……って、そうじゃない。

 やっちまったな、アンドレイ。

 これだと補習の日付が告白の舞台となるエーレンヴェルク家のパーティーと重なってしまうため、出席できない。


「…………」


 当のアンドレイは放心状態。

 現実を受け入れられないようで、その場に立ち尽くしている。

 さて……どうしたものかな。


  ◇◇◇


 次の時間の授業は通常と違い、テスト用紙の返却が行われた。

 戻って来たテストを見て一喜一憂する学生たち。

 

「間違えたところは、あとで一緒に見直しましょうね♪」

「ああ」


 今日の勉強会のテーマが決まったところで、俺たちはアンドレイのもとへ。


「アンドレイ……」

「……すまない、バレット」


 アンドレイは、その大きな体を小さく丸めながら謝罪の言葉を述べた。

 無理ないことだが……相当落ち込んでいるな。

 かける言葉が見つからないよ。

 ――と、その時、

 

「あら? これって……」


 ティーテはアンドレイの魔法薬学の解答用紙を見て、そんな声を出すと、ある一問を指差した。


「ここの問題ですけど……正解しているのに減点となっていますよ?」

「「えっ?」」


 思いがけないひと言に、俺もアンドレイもその問題へ視線を向ける。


「あっ! た、確かに!」

「じゃ、じゃあ!」


 この問題の配点は二点。

 つまり、


「トータル251点――クリアだ!」

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 逆転での補習回避が決定したことで、アンドレイは絶叫しながらウォルター先生のもとへと走っていった。


 とりあえず、これで最初の関門はなんとか突破できたな。

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