第169話 絶望のアンドレイ

 げっそりとやつれ、目の下にはクマをつくっているアンドレイ。

 どう考えてもコンディションは最悪だった。


「おいおい……」


 エーレンヴェルク家でのパーティーをきっかけにして、なんとかジャーヴィスとアンドレイの仲を取り持とうと画策していたが……あれではその最初の障害となる定期試験の突破は難しそうだぞ。


「だ、大丈夫か、アンドレイ」

「おぉ……大丈夫だ……何も問題はないよ……ジョージ」

「誰!?」


 いかん。

 幻覚が見えている。


「テスト前に夜更かしか?」

「テスト勉強終了後にジャーヴィスへの想いを言葉にしようとして……気づいたら朝になっていた」


 思春期か!

 思春期だったわ!


「しっかりしてくれよ。おまえが補習になったら、せっかくティーテと立てた計画が水の泡になっちまうぞ」

「それは申し訳ない……必ずテストには合格してみせるさ、ダグラス」

「…………」


 これは絶望的か……?

 するとそこへ、


「あ、あの、テストまではまだ少し時間がありますし、医務室で仮眠を取ってはいかがでしょうか?」

「! その手があったか!」

 

 ティーテからの提案――今できる最善の策はそれしかないか。


「テストまでは約一時間……それまで、医務室でしっかり睡眠をとるんだ。ウォルター先生には俺から説明しておく」

「すまない……恩にきるぞ……マイケル」

「わざとか!?」


 こうして、アンドレイは医務室へと向かった。

 ふらついているが……まあ、そんなに距離はないし、大丈夫だろう。


「アンドレイ……相当キツイみたいですね」

「うーん……」


 なんとかしてやりたいのは山々なんだが……こればっかりはなぁ。

 と、



「朝から難しい顔をしてどうしたんだい?」



 背後から声をかけられた俺とティーテは同時に体を強張らせる。


「! ど、どうしたんだい?」

「い、いや、なんでもない――ジャーヴィス」

「お、おはようございます、ジャーヴィス」

 

 やってきたのは渦中の人物であるジャーヴィスだった。


「何か隠しごとでもあるのかい?」

「そ、そんなんじゃないよ。それより、テスト勉強はしっかりできたか?」

「当然。特に苦手な魔法薬学についてはみっちり基礎から見直してきたつもりだよ」


 どうやらこっちは手応えがありそうだな。

 まあ、最初から心配はしていないけど。


「おや? アンドレイの姿が見えないようだけど……」

「アンドレイなら、ちょっと体調が優れないってことで医務室へ行ったよ」

「そうなのか……」


 お?

 ジャーヴィス、ちょっと寂しそうだな。

 もしかしたら……


「バレット……」

「ああ――こいつはもしかするともしかするぞ」


 これまで、アンドレイに対して友情以外の感情を表にしなかったジャーヴィス。

 だが、養子縁組という話をきっかけに、その気持ちは変化を見せているようだった。

 ジャーヴィス自身、それについて困惑している節がある。



 ……頑張れよ、アンドレイ。

 おまえの未来は、この定期試験にかかっているんだからな!

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