第167話 近づく冬休み

 その日の夜。

 いつもの談話室にて。


「もうすぐ冬休みですね、バレット」


 課題をこなしつつ、アンドレイの件をどうやって切りだそうか悩んでいると、ティーテがそんな話題を出した。


「そっか……学園祭も終わったし、もうそんな時期か」


 学園には年に二回の長期休暇がある。

 ひとつは夏。

 そしてもうひとつは冬。


 その冬休みが、目前に迫っていたのだ。


「まあ、連休を迎える前に定期試験がありますけど……」

「それもまた一緒に勉強をして乗り越えよう。そうだ。今度は他のみんなも呼んで勉強会でも開こうか」

「いいですね!」


 ティーテはポンと手を叩いて俺の意見に賛成をしてくれた。

 さらに、


「それで……あの……今年はどうしますか?」

「えっ?」

 

 一瞬、ティーテの言葉の意味が分からなかった――が、すぐに思い出す。厳密にいうと、それは俺の記憶ではなく、共有している原作版バレットの記憶だ。


 うちとティーテの実家――つまり、アルバース家とエーレンヴェルク家はこの時期になると互いの家のどちらかでパーティーをすることになっていた。これはこのブランシャル王国の国教で定められているものらしく、かといってそこまで堅苦しくもない。ようはクリスマスのようなイベントだ。

 そのパーティーの順番に関しては基本的に都合の合う方を優先するのだが、近年はその決定権が俺かティーテに絞られていた。

 両家としては、若い俺たちの仲を取り持とうとして決定したことなのだろう。

 ただ、バレットにはそんなパーティーなど微塵も興味がなかったため、実質ティーテだけで決められていた。


 しかし、今年に関しては一味違う。

 俺とティーテの仲は、昨年に比べると劇的な変化を遂げていた。

 そのため、今年は例年とは違った決め方になる。

 だから、ティーテは俺に相談したのだろう。


「そうだなぁ……」

「あ、あの、私から提案があるんですけど」


 ティーテからの提案……気になるな。


「言ってみてくれないか?」

「は、はい」


 その提案とやらを口にする前に、ティーテは一瞬お茶のおかわりを用意しているマリナへ視線を送る。それを受け取ったマリナは静かに頷くことで返事をする。どうやら、このふたりの間で事前に何かしらのやりとりがあったようだ。


「パーティーなんですが……今年はうちでやりませんか?」

「ティーテの家で?」

「はい。それで……今年は大勢招待したいと思って……」


 なるほど。

 それはそれで楽しそうだ。


「いいじゃないか。とても賑やかなパーティーになるぞ」

「! ホ、ホントですか!?」

「ああ。大賛成だよ」


 俺が快諾したのを受けて、ティーテとマリナはハイタッチで大喜び。

 その様子はまさに本物の姉妹を彷彿とさせる。

 レベッカやプリームと比べて一番姉妹っぽい組み合わせだよなぁ。


 俺としてはティーテが喜んでくれて何よりなのだが……すっかりアンドレイの話を切りだすタイミングを逸してしまった。

 この流れでは言いにくいし……でも、そのパーティーというのはひとつきっかけになりそうだな。


 ふと視線を窓の外に向ければ、校内の木々が寒さを強める夜風で激しく揺れている。

 この世界で迎える初めての冬はもうすぐそこまで迫っていた。

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