第163話 予期せぬ提案

【お知らせ】

いよいよ3日後――5月8日に本作の書籍第1巻が発売!

WEB版とはちょっと違う展開で、バレットが《ざまぁ》フラグに挑む!

書籍版のみのオリジナルエピソードもありますよ!


そしてコミカライズは5月25日から「がうがうモンスター」様にて連載開始!

どちらもよろしくお願いいたします!



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「きっと……ずっと女であることを隠し続けてきたこと……それが彼の逆鱗に触れたのだと思う」


 肩を落としてそう語るジャーヴィス。

 ティーテは必死に「そんなことないですよ」と励ましている。

 俺もそれに加わった。

 なぜなら、俺は真実を知っている。

 アンドレイがジャーヴィスを避けている理由は、彼がジャーヴィスに惚れているからだ。

 ただ、これまで男同士の友情と思っていたところに、「実は女でした」という情報が突発的に入ってきたものだから、アンドレイ自身がその感情に戸惑っているように見えた。

 彼は真面目そうというか、堅物なタイプだからなぁ。女性と分かった途端、ジャーヴィスに惚れたなんて許されないとか思っているのかもしれない。


 しかし、当のジャーヴィスはそんなアンドレイを兄妹のようだと表現していた。

 となると、アンドレイは恋愛対象外ということになりかねない。

 もちろん、「兄妹のような関係から恋人に発展」という展開も可能性としてはゼロでないと言えるだろう。

 アンドレイがその壁を乗り越えてジャーヴィスに想いを告げられたら――


「バレット? どうかしたのか?」

「! い、いや、なんでもない」


 いかん。

 また意識が別方向に……ちょっと話題を変えよう。


「これはあくまでも俺の推察なんだが……やっぱり、アンドレイはまだ戸惑っているんだと思うんだ」

「ほう」

「昔から知っている同性で腐れ縁の友だち。それが、実は女でしたってなったら誰でもそんな反応になると思う」


 本当は「可愛い女の子」って言おうとしたが、ティーテの前でジャーヴィスをそう表現するのは憚られた。

 まあ、ティーテのことだから大丈夫とは思うけど、やっぱり婚約者という立場からすると少しはモヤッとするだろうし。


「そ、そういうものかな」

「距離感もまったく違ってくる。これまでみたいに、近い距離でやりとりするってことはしばらく難しいんじゃないかな」


 原作版バレットは大の女好きだが、今の俺は正直女子と会話する時まだちょっと緊張している面がある。ティーテの友人であるコルネルとかクラス委員長のクライネとか……普通に話せているようで、実は緊張していたりする。


 アンドレイは、恐らくそんな俺と同族だろう。女子との会話中に著しく言語能力が低下するタイプだ。その点は非常に親近感が湧く。


 まあ、それはともかくとして、まずはジャーヴィスの意識を変えるところからスタートしなくてはいけない。


 兄妹ではなく、異性として見られるように。

 そう結論を出した俺だったが――ここでジャーヴィスから予期せぬ言葉が。


「あの」

「うん?」

「ここだけの話にしておいてもらいたいのだけど……」


 何やら秘密の話があるらしい。

 俺はチラッとマリナへ目配せをする。

 それだけですべてを察したマリナはそそくさと部屋から出ていった。有能すぎる。


 さて、これでこの部屋には俺とティーテとジャーヴィスの三人だけになった。

 一体何を打ち明けようっていうんだ?


「実は……ある誘いを受けているんだ」

「誘い?」

「うん。――フォンターナ家の養子にならないかって」

「「えっ!?」」


 俺とティーテの声が重なる。

 それってつまり……正式にアンドレイと兄妹になるってことか!?

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