第160話 新生学園騎士団
学園祭が終わり、平穏な日常が戻って来た。
ただし、「これまで通り」か、と問われてしまうと、「そうだ」と答えるには変わったところが多い。
中でも一番変わったところは――
「おはよう」
「あ、おはよう、ジャーヴィス」
「おはようございます」
「おいっす」
教室に入ってきて、クラスメイトに朝の挨拶をするジャーヴィス。
その身を包むのはこれまで着ていた男子の制服ではなく、女子の制服であった。
最初こそ違和感を覚える者が多く、どこかギクシャクした態度だったが、それも一週間を過ぎて見慣れてくれば、普通に接するようになってくる。
あと、これはマデリーンにも言えることなのだが――やはりというかなんというか、両家は爵位を剥奪されることとなった。
共に貴族ではなくなったふたりだが、人間性と実力は学園でも屈指の存在であったため、なんとかここに留まることができた。裏ではアビゲイル学園長が手を回してくれたらしいが……本当に感謝しかない。
とはいえ、今後立場的に厳しくなるのは事実だ。
その悪質な手口から、ジャーヴィスやマデリーンの存在を危険視する者もいたが、ふたりはどちらかというと被害者だ。それに、普段の行いから、そのような心配はないと最終的に判断されたらしい。その辺は原作バレットと正反対だな。
それから、マデリーンの弟であるジョエルは退学処分となった。
彼はメイドのエレノアさんを巻き込み、優秀な姉であるマデリーンに成り代わろうとしていた。
ただ、仮にあの武闘大会で結果を出せたとしても、さすがにすぐバレそうなものだ。その辺りは優秀さをアピールすれば学園側は嫌でも認めざるを得ないだろうというなんとも杜撰な思考で挑んでいたらしい。
しかし、マデリーン自身はそんな弟を許そうとしていた。
とはいえ、さすがに一歩間違えば取り返しのつかない事態に発展していたこの案件を無罪放免にするわけにもいかず、退学となったのだ。
それと、マデリーンに関してはもうひとつ大きな出来事があった。
以前、アビゲイル学園長が言っていた、新しい学園騎士団のメンバーに選出されたのだ。
正直なところ、かつての想い人であるラウルとその恋人のユーリカが一緒にいるのを見るのは辛いんじゃないかと思ったが、意外にも本人からの志願だったという。
学園長はその辺の恋愛事情を知っていて、配慮するつもりだったらしいが、本人の希望とあっては無下にはできないと入団を決めたらしい。
――新たに入団したのはマデリーンだけではない。
もうひとり、こちらもある意味で意外な人物が学園騎士団に入った。
その人物の名はアンドレイ・デラクルス。
そう。
武闘大会でジャーヴィスのパートナーを務めた男子学生だ。
原作の【最弱聖剣士の成り上がり】では名前を確認できなかった彼だが、その実力は確かなもの。特にその恵まれた体格から繰り出されるパワーある一撃は俺でも完全には防ぎきれないだろう。まさにその規格外のパワーは、今の学園騎士団に欠けているものであった。
こうして、学園騎士団のメンバーは総勢で七名に増えたのであった。
◇◇◇
新メンバー加入から三日。
この日、俺は定期任務である授業後の学園巡回を新メンバーのアンドレイと共にこなしていた。
彼にとってはこれが騎士団として最初の仕事になるわけだが、
「…………」
なんだか、表情が暗い。
クラスのムードメーカーである彼だが、どうにも今日は大人しい。
すると、
「な、なあ、バレット」
「うん?」
「ちょっと、相談していいか?」
神妙な面持ちで、アンドレイはそう切り出した。
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