第159話 次なる問題

「二次被害……ですか?」


 ハルマン家とレクルスト家の没落。 

 それが引き起こす二次被害とは。


「今回の件で、ブランシャル王国はその国力を大きく損なうこととなった。……この状況を絶好のチャンスと捉える国もあるということね」

「チャンス……」


 それはつまり――このブランシャル王国の支配を狙い、侵略行為に及ぶ国が現れることを意味していた。


「それは……かなりまずい状況ですね」

「特に、ハルマン家が裏稼業に手を染めていたのは王家にとっては痛手ね。……ただ、あそこの当主は昔から少し過激な言動があったから、嫌な予感はしていたのよ。でもまさか、呪術に手をつけていたなんて」


 目に見えて落胆するアビゲイル学園長。

 相当ヤバいんだな、呪術って。

 さらに加担していたのがハルマン家とレクルスト家っていうのがダメ押しになっているのだろう。まったく関係ない一般人が一連の犯行に絡んでいたのなら、ここまで悩まなかっただろう。


「実際のところ、ブランシャル王国に侵略戦争をふっかけて来そうな国ってあるんですか?」

「まあ……どうかしらね……」


 あっ。

 これ絶対にあるヤツだ。


「騎士団の動きはどうなっています?」

「もちろん、警戒態勢を取っているわ。今のところ、目立った動きはないようだけど、いつ何が起きるか分からないから……緊張状態が続いているってところね」

「…………」

 

 あの学園長がこんな不安げな声を出すなんてな。


「この件はあなたにとっても他人事じゃないのよ?」

「心得ていますよ。――父上のことですよね?」


 そうなると、うちやティーテのところのエーレンヴェルク家にも何かしらのしわ寄せがやってきそうだ。こうした俺の考えはどうやら的中したようで、学園長もその辺は気にかけてくれているらしい。


「まあ、今すぐにどうこうなる案件じゃないけど、肝に銘じておいてもらいたいの」

「分かりました」


 その後も、学園長と学園騎士団の件でいろいろと話し、結局一時間以上滞在することになったのであった。




 学園長との話が終わると、時間は昼前になっていた。

 クラスへと戻る道すがら、俺はふとある考えを巡らせていた。


 それはこの世界の原作【最弱聖剣士の成り上がり】におけるラスボスの存在について。

 現在、本編は作者書籍作業中により長らく更新が止まった状態となっており、ストーリーは進んでいない。そのため、この作品の最後の敵はまだ明かされていなかった。


 普通に魔族との戦いに勝利して終わるのか。

 それとも別勢力との戦いが待っているのか。


 作者は何も言及していないため、さまざまな考察がされていた。


「……過去の話を見返すことができればいいんだけどな」


 誰にも聞かれないよう、小声で呟いた。

 もう一度、原作を一から読み返せば、どこかに隠された伏線に気づけるかもしれない。

 だが、当然この世界にいる以上、それを知る術はない。

 バレットの記憶に頼ったところで、それも無駄だろう。


 ……とりあえず、ここまでは順調に進んでいるんだ。

 原作ではブランシャル王国が侵略されたなんて描写はないし、このまま何事も起きずにいてもらいたいものだ。


 俺はそう願いながら、教室へと戻っていった。





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