第158話 学園長からの報告

 学園祭の後片づけで忙しなく働く学生たちを横目に、俺は学園長室を目指していた。

 目的地の前まで来ると、ノックをして返事を待ってから入室。


「いらっしゃい。急に呼び出したりして悪かったわね」

「いえ、俺もいろいろと気になっていたので」

「あらそうなの? まあ、そこにかけて」

「では、失礼します」


 促されるまま、俺はソファへと腰を下ろす。

 学園長は対面へと座った。


「あなたに報告することはふたつ」

「ふたつ……」


 あれ?

 レクルスト家とハルマン家のこと以外に何かあるのか?


「まずひとつ目だけど――学園騎士団に新メンバーを入れようと思っているの」

「新メンバーを?」


 これは意外な展開だ。

 現在の学園騎士団のメンバーは俺、ティーテ、ジャーヴィス、ラウル、ユーリカの五人。原作でいうところの初期勇者パーティーで構成されている。

 てっきり、このまま卒業まで五人体制でいくのだとばかり思っていた。原作では今のメンツで旅に出るわけだし。これもまた、俺が原作の流れを破壊したことで生まれた新しいルートなのだろう。


「メンバーについては現在選考中よ。近日中には発表できると思うけど」

「分かりました」

「……裏を返すと、メンバーを増やさなければいけない状況にあるってことなんだけど」

「えっ?」


 含みを持たせた笑みを浮かべながら、学園長はなんとも不吉なことを口走る。

 だが、とても冗談を言っているようには見えなかった。


「もしかして……レクルスト家とハルマン家の件で何かありましたか?」

「何かあったというより……処分に困っているというのが本音かしらね」


 大きなため息を添えて、学園長がそう漏らす。


「ラウル・ローレンツを苦しめていた例の呪印だけど――あれはレクルスト家とハルマン家のお抱え呪術師が長年に渡り研究していた試作であることが判明したわ」

「試作?」

「そう。ゆくゆくは兵士強化を目的に軍事転用するつもりだったみたいだけど……さすがにあそこまで理性を失っては欠陥もいいところね」


 学園長の言葉を耳にした時、俺は演習で暴走ラウルと対峙した際のことを思い出した。

 正気を失い、魔剣の力の暴走と合わせて危うく大惨事となるところだったが……試作ということは、


「もしかして……ラウルを実験体に?」

「彼自身は覚えていないようだけど……まあ、その呪術師の身柄を拘束すれば、もう少し全容が掴めるでしょう」

「行方はつかめているんですか?」

「一応ね。ついさっき、騎士団がその研究施設へ向かって出立したところなの」

「……何事もなければいいですが」

「そうね。……或いは、先に拘束されている両家の当主が先に音を上げるか」


 学園長は「ふふふ」と怪しげに笑う。

 もしかして……拷問にでもかけられているんじゃ……?

 ちょっと怖いんでこれ以上は何も聞けないな。


「まあ、ともかく、仮に両家が貧民街にいる人たちを呪印のための実験体として扱っていたなら――爵位剥奪は決定的でしょうね」

「! だ、だったら、ジャーヴィスは……?」

「平民ということになるわね。当然だけど、彼――じゃなくて、彼女に罪はない。身柄を拘束されたりなんてことはないから安心して」

「そ、そうですか」

 

 それを聞いてちょっと安心した。

 何せ、原作では監獄送りだったからなぁ。


 ともかく、これで一連の騒動は完全決着――と、思っていたのだが、


「これらの問題が引き起こす二次被害……これがこの国の明暗を大きく分けるかもしれないわ」


 学園長はなんとも不吉な言葉を口にした。

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