第156話 後夜祭
レクルスト卿が連行されたことで少しの遅れが生じたものの、後夜祭は無事に行われることとなった。
多少のドタバタはあったにしろ、学生たちにとっては一年に一回しかないお祭りのフィナーレ。いい思い出にしようと、あちらこちらで盛り上がりが見られる。
その段取りだが、まずは武闘大会に参加した学生たちの表彰式から。その中では、王国騎士団から、勝敗に関係なく、もっとも評価をされた学生の発表を行われる。
騎士団の代表者がステージへと上がり、今年の武闘大会でもっとも輝いた学生の名を高らかに叫んだ。
「ジャーヴィス・レクルスト!」
直後、大歓声が巻き起こった。
「ぼ、僕!?」
ドレスに身を包むジャーヴィスは選ばれると思っていなかったらしく、驚きの声を上げる。
いくら勝敗が関係ないとはいえ、過去の受賞者は勝者であることがほとんど。
だから、選ばれるとは思っていなかったのだろう。
「さあ、ステージへ」
司会役の学生に促されて、ジャーヴィスは歩き始める。
周囲の学生たちからは祝福する声が次々と送られた。
ジャーヴィスが代表騎士の前まで来ると、彼の口からなぜ選ばれたのか、その理由について説明が始まった。
「聖剣を持つバレット・アルバースに対し、君は知恵と工夫を凝らして素晴らしい戦いを披露してくれた。何より、強大な魔力を持つ聖剣に一歩も怯まず戦うその勇気は賞賛に値する。君のような戦いぶりは、我々騎士団にとっても学ぶべきところがあるよ」
「あ、ありがとうございます」
ベタ褒めされたジャーヴィスは珍しく照れている。
一方、会場からは割れんばかりの拍手が起きていた。
自身を縛りつけていたレクルスト家と決別し、自分だけの道を歩み始めたジャーヴィス。今回の受賞と周囲からの拍手は、その前途を祝福しているかのようだった。
表彰関連の行事が終わると、堅苦しいムードはそれまで。
あとは気ままにダンスをしたり、運ばれてくる軽食やドリンクを飲みながらトークに花を咲かせるなど、各々が自由に楽しんでいる。
「学園祭……終わっちゃいますね」
「ああ。なんていうか……やることはいっぱいあったはずなのに、いざ終わってみるとあっという間の出来事だったな」
「はい♪」
ドリンク片手にティーテと楽しく会話をする。
ジャーヴィスは多くの学生に取り囲まれて忙しそうだし、ラウルとユーリカは――あっちはあっちでお楽しみのようだ。
「それにしても、明日がお休みでよかったよ」
「本当ですね。――っ!」
話している途中、ティーテがちょっとだけ震えたように見えた。
そういえば、季節でいうともう晩秋。
間もなく冬がやってくるって時季だ。
「ほら、これ」
俺はティーテに自分の上着をかけた。
驚きながらも「あ、ありがとうございます」と言ってそれを掴むティーテ。
こうして、学園祭の夜は更けていく。
多くの謎を解決したが、それでも俺の目的はまだ変わらない。
嫌われ勇者ではなく、みんなから愛される勇者になること。
そしてティーテを幸せにすること。
そのふたつの目的を達成するには、まだまだ時間がかかりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます