第154話 告白

 まだ後夜祭が始まっていないにもかかわらず、参加した学生たちはざわめいていた。

なぜなら、学生たちの注目を一気にかっさらっていった存在が現れたからだ。

 それは――


「お、女の子……?」


 ティーテがポツリと呟く。

 そう。

 女の子だ。

 ドレスで着飾り、薄っすらメイクを施した長い金髪の美少女。

 学生たちが注目するのも頷ける……まるで絵画の中から飛び出して来たんじゃないかってくらい、今の立ち姿は美しく、気品に溢れている。


 ――しかし。

 しかし、だ。


 どこかで見覚えがある……ていうか、あれはやっぱり――


「あぁっ!?」


 どうやらティーテも気づいたようだ。

 俺とティーテはアイコンタクトで次の行動を決める。

『あの謎の美少女へ接近しよう』――と。


徐々に数が増えていく人だかりを抜けて、俺とティーテは少女の前に立つ。


「あっ」


 こちらを視認して、少女は思わず声を漏らす。

 近くで見た結果……俺たちの疑惑は確信へと変わった。



「ジャーヴィス……なのか?」



 俺はその名を口にする。

 それに対し、


「やっぱり、君にはすぐバレたね」


 ジャーヴィスは素直に認めた。

 と、同時に、周囲のざわめきは一層大きくなった。


「ジャ、ジャーヴィスだって!?」

「あのジャーヴィスだっていうのか!?」

「嘘でしょ!?」

「そ、そんな……」


 驚愕する者。

 動揺する者。

 憔悴する者。


 リアクションはさまざまだが、


「あ、あれだ! 女装だろ?」


 ひとりの男子学生が、そんな現実は認めないと言わんばかりに叫ぶ。

 確かに、今の状況だけ見れば、ジャーヴィスがめかし込んでドレスを着ているだけとも捉えられる。

 ……違う。

 俺とティーテはジャーヴィスの本当の性別を知っているし、さらにそれを今までひた隠しにしてきたことも。そんなジャーヴィスが、わざわざバレるようなリスクを冒してまでもこのような格好をして衆人の前に現れるはずがない。

 それに、武闘大会での、何か揺るぎない決意をにじませた瞳と言動の数々。

 それを含め、トータルで判断すると、ジャーヴィスは、


「すまない。みんな」


 突然、ジャーヴィスが謝罪の言葉を口にした。

 さらに周囲の困惑が増していく。


 おいおい……まさか……この場で発表するのか?

 誰もがジャーヴィスの発言に耳を傾けていた――まさにその時、


「ジャーヴィス!!」


 後夜祭の会場に怒号が轟く。


「あれは……」


 一歩一歩に怒りの感情をにじませ、こちらへと近づいてくる初老の男性。その出で立ちから貴族であることがうかがえるが――もしかして、


「父上……」


 ジャーヴィスが言い放ったそのひと言で、関係性が発覚。

 やはり……この人はジャーヴィスの父親だったか。


「なんだ、その格好は! 貴様にはレクルスト家の長男としての自覚がないのか!」

「ありませんね」

「な、何っ!?」

 

 父親の言葉を真っ向から弾き返すジャーヴィス。


「僕は《長男》ではないので」


 ジャーヴィスのこの発言が、さらにどよめきを生んだ。


「ジャーヴィス……貴様……まさか!?」


 あっ、やっぱり父親には黙っていたんだな。

 ということは――



「今日僕は……この場を借りて、真実の告白に来た!」



 予想は的中。

 ジャーヴィスはひた隠しにしてきた本当の性別をここで発表する気だ。

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