第151話 黄昏の決意

「ふぅ……」


 汗を流し終えた俺はラウルと別れ、ある場所へと来ていた。

 そこは学園の屋上。

 ティーテの秘密の庭がある場所だ。

 俺たちは後夜祭が始まるまでの時間をここで過ごそうと約束していた。

 ちなみに、ティーテは今緑化委員の仕事で席を外している。

 一応、俺も緑化委員のメンバーであるが、ハンス委員長の厚意により、今回は休憩を優先させてもらった。そのハンス委員長は、俺とジャーヴィスの試合を大泣きしながら観戦していたらしい。


 ちなみに、ラウルと別れた理由は――まあ、あれだ。

 あっちもマデリーンとの激闘を終えて、いろいろとアツく語り合いたいことがあるだろうという俺なりの配慮だ。

原作の【最弱聖剣士の成り上がり】では結ばれることのなかったふたりだ。いち原作ファンとしては、その叶えられなかった「もしも」の世界に生きるふたりを応援してやりたい。


 俺は空がゆっくりと橙色に染まっていく光景を眺めながら、「まるで俺に対する周囲の評価のようだな」と漏らした。


 その変化が、素直に嬉しい。

 とりあえず、第一段階は突破したと考えてよさそうかな。

 

 あと残る問題は――この世界における、いわゆるラスボスの存在について。

 ラウルやユーリカを暴走させた者の存在。

 最初はティモンズ先生を疑っていたが……どうも違うようだ。

 アビゲイル学園長と騎士団による取り調べが終わらないとハッキリしたことは分からないのだが、恐らくハルマン家がかかわっている。

 

 中でも、姉のマデリーンになり替わろうとした双子の弟ジョエル。

 こいつがキーパーソンになっていると見て間違いない。

 学園長も、そこに焦点を当てるだろう。


「とりあえず、結果待ちって感じだな」

「なんのですか?」

「それはもちろん――って、うわあっ!?」


 いきなり背後から声をかけられて、俺は思わず飛び退いてしまった。


「そ、そんなにビックリしましたか?」


 振り返ると、キョトンとした顔でこちらを見つめるティーテの姿が。


「ああ、いや……ハルマン家のことについてだよ」


 俺がそう言うと、ティーテは「あぁ……」と力なく呟いた。

 今回のマデリーン絡みの事件は、ティーテにとってもショックが大きかったろうな。ハルマン家といえばかなり大きな家だ。きっと、ティーテの実家であるエーレンヴェルク家も古くから付き合いがあったはず。


「……ティーテ」

「は、はい」


 俺はふと思い立ち、ティーテへと告げた。


「君はどんなことがあっても必ず俺が守るから」


 それは決意表明だった。

 原作では幸せな結末を迎えられなかったティーテ――しかし、この世界では違う。ハーレム要員の一員として影が薄くなっていく心配はない。

 他のみんなだってそうだ。

 誰も不幸になんてさせない。

 みんなで幸せになる――それが、いつしか俺の目標になっていた。


 ティーテと肩を並べながら、屋上から見える景色を楽しんでいると、やがて時計塔の鐘が鳴りだす。

 いつもなら授業の終わりを意味するが、今日に限っては後夜祭の準備が整ったことを知らせる役割を担っている。


「そろそろ行きましょう、バレット」

「そうだな」


 俺とティーテは歩きだす。

 これからも、こうして肩を並べて一緒に歩きたい。

 そのために……できることへは全力を尽くそう。


 俺は改めて固く心にそう誓うのだった。


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