第150話 小休止

 武闘大会終了後。


 後夜祭は一時間後に行われるということで、俺とラウルは会場に併設している風呂場で戦いの汗を流すことにした。


「ふぅ……サッパリしますね、バレット様!」

「まったくだ!」


 共同浴場では俺たち以外にも、武闘大会に参加していた学生たちがほぼ全員参加していた。

 当然ながら、俺たちは男湯の方に入っているので、周りは全裸の男だらけ。武闘大会の時は戦っていた間柄だったとはいえ、普段は共に切磋琢磨して上を目指す仲間――なので、年上の先輩も気軽に話しかけてくれる。


 特に、ここ最近は俺にも普通に話しかけてくれる人が増えた。

 とても喜ばしいことだ。

 

「バレット。いい試合だったな」


 ラウルと肩を並べて湯につかっていると、第一試合でミルジー先輩に勝利したフォルガネス先輩に声をかけられる。


「あ、ありがとうございます、フォルガネス先輩」

「おまえたちが凄すぎて、俺たちの試合はすっかり前座になってしまったよ。――なあ、レオンティエン」

「まったくだぜ」


 少し呆れ気味に言ったのは、同じく武闘大会で勝利をあげたレオンティエン先輩だった。



 そのレオンティエン先輩の顔が少し曇る。

 いつでもどこでも陽気な先輩らしからぬ表情だった。


「こう言っちゃなんだが……正直、ジャーヴィスがあそこまで善戦するとは思っていなかったな」

「うむ。もっと早期に決着すると思ったが……」


 フォルガネス先輩も同意見らしい。

 俺とジャーヴィスの直接対決――その下馬評は、俺を「優勢」と捉えるものだった。

 その要因はなんといっても聖剣の存在だろう。

 もし、ジャーヴィスが聖剣に選ばれていたならば、きっと評価は百八十度違っていたはず。

 実際に聖剣を持ち、その力で多くの敵を倒してきた俺だからこそ、誰よりもそのことを知っている。


「ジャーヴィスはジャーヴィスで、自分のやれる努力を積んできました。そう易々と勝てる相手ではありませんよ」


 俺は先輩ふたりへそう告げた。

 どうも、俺と戦ったことでジャーヴィスの評価が不当に下げられている気がする。

 あの時のジャーヴィスを止めらえる者は、学園の中にも少ないだろう。

 ジャーヴィスの放つ魔力は、向けられて初めて感じるもの……第三者がいくら理論立てて説明しても、あの場で感じたジャーヴィスの危機迫る勢いは抱いただろう。


「って、そういえば、そのジャーヴィスはどうしたんだ?」


 レオンティエン先輩が、風呂場にジャーヴィスの姿がないことに気づいた。

 当然だ。

 男と名乗っていても、ジャーヴィスの中身は女の子。

 性別を隠し、男として生きていくよう強要されているジャーヴィスにとって、本来の性別がバレるようなマネは絶対にしないのだ。



「…………」


 しない――はずなんだ。

 そうである可能性が極めて高いのだが……どうしても、試合中のジャーヴィスの言動が気になっていた。

 ジャーヴィスの中で、何かが大きく変わろうとしている。

 それはきっと、原作にもないパターンだ。

 だとすれば、俺の選択肢が重要になってくる。



 ジャーヴィスとのグッドエンドを迎えるために……俺ができることって何があるのだろう。

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