第148話 戦いの後のふたり

 決着の時が来た。


 聖剣の力を解放し、強烈な炎魔法でジャーヴィスの逃げ場を奪った後、俺は渾身の一撃を食らわせた。炎によりダメージがあったとはいえ、紙一重のところでジャーヴィスのライフの方が先にゼロとなり、この戦いは俺の勝利で終わった。


「ふぅ……」


 大きく息を吐いてから、俺は剣をしまう。

 そして、ジャーヴィスのもとへと向かった。


 仰向けのまま動かないジャーヴィス。


「ジャーヴィス! どうしたんだ!」


 サポート役のアンドレイが、動かないジャーヴィスを心配してステージに上がってくる。

 ……おかしいな。

 身体的なダメージは受けないはずなのだが、ジャーヴィスは一向に動きだす気配がない。アンドレイが必死になって呼びかける――と、


「そうか……僕は負けたんだな……」

 

 不意に、そんな言葉が口から漏れ出た。

 右腕で目元を覆っているのは涙を見られたくないからか。


 ジャーヴィスがこの戦い並々ならぬ覚悟を持って挑んでいることは戦う前からなんとなく分かってはいたが、だからと言ってこちらが手を抜いて戦うことを、彼女は絶対によしとしないだろう。

 そういう誇り高いところがあるからな、ジャーヴィスは。


 なかなかジャーヴィスが起き上がらないので、会場はどよめきに包まれつつあった。

 もしかしたらケガでもしたのかと心配になった教師陣が集まってくるが、その頃になるとようやくジャーヴィスも立ち上がり、「大丈夫です」と手を振ってアピールした。


 やがて、俺の方へと静かに歩み寄り、


「さすがだったよ、バレット。――それと、礼を言わせてくれ」


 そう言って、ジャーヴィスは右手を差し出す。


「礼?」

「君は正々堂々真っ向勝負で僕を打ち負かしてくれた。一切の手心を加えず、僕の決意に全力で応えてくれた。それが嬉しかったんだ」

「ジャーヴィス……」


 悔しさを感じる。

 だが、それ以上に晴れやかな気分でいるようだ。


「これで……決心がついたよ」

「決心? 一体何のだ?」

「それは――後夜祭を楽しみにしていてくれ」


 ジャーヴィスはそう言い残すと、アンドレイと共にステージを下りていく。

 っと、すでに次の試合に出場する選手が待機しているので、俺も早くステージから移動しなくちゃな。


 ジャーヴィスのあとを追うようにステージから下りる――その瞬間、まるで地鳴りのような大歓声と惜しみない拍手が俺たちに注がれる。


「よくやったぞ、バレット!」

「ジャーヴィスも凄かったぞ!」

「感動したぜ!」

「来年も出場しろよ!」


 次から次へと、そんな言葉が浴びせられる。

 ……なんというか、むず痒いな。

 とりあえず、学園での俺の――バレット・アルバースの評価は原作とだいぶかけ離れたものになってきているというのは間違いなさそうだ。

そんなことを実感しつつ、ティーテの方へと向かう。すると、

 

「おめでとうございます、バレット!」


 ティーテが勢いよく抱きついて来た。

 周りに多くの学生たちがいることを忘れているらしい。

 

「やれやれ、見せつけてくれるね」

「あはは、まったくですね」

「おふたりとも、おめでとうございます!」


 ジャーヴィス、ラウル、ユーリカの言葉を受けてハッと我に返ったティーテは顔を真っ赤にしながら離れていく。


 何はともあれ、俺たちの武闘大会はこうして幕を閉じた。

 残されたイベントは後夜祭のみ。

 


 ――ここで、学園を揺るがす大きな波乱が起きようとは、この時の俺は微塵も想定していなかったのである。

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