第147話 勝負の行方

 縮まらないジャーヴィスとの差を一気に埋める――いや、そこから逆転して、一気に決着までもっていくため、俺は聖剣に魔力を込める。


 こちらの意図を読み取ったジャーヴィスは、真っ向から挑むつもりだ。

 とはいえ、まともに魔力をぶつけ合ったのでは向こうに勝算はない。

 

 

 俺の一撃が決まるか。

 それともジャーヴィスのスピードが勝るか。


 気がつくと、会場はしんと静まり返っていた。

 先ほどまで繰り返されていた激しい攻防から一転し、今は互いに向き合った状態で動きを止めている。この状況の変化に、観客は動揺していた。


「な、なんだ? 互いにまったく動かなくなったぞ?」

「おいおい、まさかスタミナ切れか?」

「バカ。お互いに次の一手がどう出るか、探り合っているんだよ」


 そう。

 今、俺たちは間合いをはかりながら攻撃を仕掛け合おうとしている。


 ――だが、きっと向こうからは仕掛けない。 

 ジャーヴィスの持つ魔力量は一級品だが、聖剣の加護を受けた俺と比べるとかなり差があると言っていい。

 まともに正面からぶつかり合えば、敗北は必至。

 だが、ジャーヴィスはムキになってそんな勝負に出るような性格じゃない。


 狙っている。

 俺の放った一撃をかわし、胸元に強烈なカウンターを叩き込むつもりなのだろう。俺はそのカウンターをかいくぐらなければならない。


「ふぅ……」


 難儀な話だと思いながら息を吐き、そして――


「はっ!」


 短い雄叫びのあと、俺の全身をまとう魔力は炎へと姿を変える。


「おおっ!」

「バレット・アルバースは炎魔法で挑む気か!」

「しかし、なんて魔力量だ……同じ学生とは思えない」


 聖剣を覆うように燃え盛る炎。

 その勢いに当てられた観客たちから、まるで嵐のような大歓声があがる。


 ――だが、こんなものじゃない!


「いくぞ、ジャーヴィス!」

「来い、バレット!」


 俺はジャーヴィス目がけて炎を矢の形に変えて放つ。

 それは一本だけでなく、合計で五十本。

 豪雨のように、頭上から炎の矢がジャーヴィスへと降り注ぐ。


「か、かわすんだ、ジャーヴィス!」


 そのあまりの数に、アンドレイも的確な指示を送れなかった。

 ――が、今のジャーヴィスには無用のようだ。


「確かにこの数はなかなか……でも!」


 ジャーヴィスは自慢のスピードで降り注ぐ矢をかわしていく。

 

「「「「「おおっ!」」」」」


 今度は観客だけでなく、試合を観戦している騎士団の人々からも声があがった。

 そりゃそうだろうな。

 あれだけ速く動けるヤツは騎士団にもそうはいない。


 ……だが、惜しかったな、ジャーヴィス。


 そのスピードは確かに凄いが――戦える範囲が限られたこのステージの上では移動するにも制限がある。


 だから……その制限を最大限に生かし、動きを封じる!


「おおっ!!」


 俺は聖剣をステージへと突き立てる。

 すると、切っ先から炎が湯水のごとくあふれ出し、それはやがてステージ全体を覆いつくした。


「な、なんだ、ありゃ!?」

「あんなに広範囲にわたって魔法を展開できるのか!?」

「これじゃあ逃げ場がないぞ!」


 それが俺の狙いだ。

 ステージ全体を炎上させて、ジャーヴィスの逃げ場を奪う――そのための炎だ。

 

「くっ!」


 ジャーヴィスは意表を突かれたことと炎の熱に動揺し、動きが止まった。

 ――今だ!


「くらえっ!」


 炎の中を駆け抜けて、俺はジャーヴィスに会心の一撃を放つ。


「ぐあああああああああっ!?」


 それをまともに食らったジャーヴィスの体が宙を舞った。

 そして――彼のライフは一気にすべて消滅したのだった。

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