第146話 一か八か

 激しい攻防が繰り返される、ジャーヴィスとの一戦。


「す、すげぇな、ジャーヴィス……」

「ああ……バレットだって、決して不調ってわけじゃないのに」

「鬼気迫るものがあるよなぁ」


 観客たちは、ジャーヴィスの気迫溢れる戦いぶりに、感嘆の声をあげる。

 俺もその並々ならぬ覚悟で挑むジャーヴィスの気持ちに押されていた――が、このまま終わるつもりは毛頭ない。密かに反撃の機を窺っていた。


 ――だが、今日のジャーヴィスは一味違う。

 

 俺はこれまで、ジャーヴィスの戦う姿を何度も見てきた。

 洗練されているというか、無駄のないとてもスマートな動作――もっと言えば、必要最低限の動きで再興の結果を叩きだすって感じだった。

 しかし、今はそれらと大きく異なる。

 がむしゃら。

 今のジャーヴィスの戦い方をあえて言葉を使って表現するならばそれが適切か。どうしても負けられない必死さがにじみ出ている。

 

 だからと言って、こちらも手加減はできない。

 そんなことをすればジャーヴィスにとって失礼だし、何より、こちらが手を抜けば騎士団の御歴々に一発で看破される。つまり、気を遣ってジャーヴィスに勝利を譲ろうとすれば、すぐに見破られるし、彼女への正当な評価が困難になる。


 だから、俺も本気だ。

 本気でジャーヴィスと戦っている。

 まあ、そもそも、最初から勝ちを譲る気なんてない。

 こっちだっていろいろかかっているんだ。


 ……さっき、見ちゃったんだよな。

 観客席に、うちの両親とティーテの両親が観戦に来ているのを。

 ティーテのところはさっきリリア様と一緒だから分かるけど、まさかうちの家族まで来ているとは。

 こうなれば、俄然気合が入るというもの。



 ――が、俺は攻めあぐねていた。

 その要因は、ジャーヴィスがいつも以上に気合が入っているということもあるが、それにプラスして、


「ジャーヴィス! バレットは足元を狙っているぞ!」

「了解!」


 ジャーヴィスのサポート役を務めるアンドレイが非常に有能だったのだ。

 おかげで、こっちも攻撃は当てているのだが、ライフの差はまったく縮まらない。そうこうしているうちに、俺の残りライフは30を切ろうとしていた。


「くっ!?」


 このままジリ貧だ。

 逆転するには、一発逆転の大技を叩き込む必要がある。


 だが、そう簡単につけ入る隙を見せない。

 だったら――


「はあっ!」


 聖剣に魔力を込める。

 いつも通りのことだが……今回はこれまでにない量の魔力を注いでみた。


 一か八かの大勝負だ。

 俺の魔力が切れて動けなくなるか、反撃が成功するか――どちらに転ぶか、俺は運に任せてみた。どのみち、今のままでは負けてしまうし。


「むっ?」


 どうやらジャーヴィスも気づいたようだな。

 俺が次の一撃にすべてをかけている、と。


「相変わらず、君はやることが大胆だね」

「これくらいしか、突破口が思い浮かばなかったんでね」

「ふふふ、君のそういう計算高いように見せておきながらも、勢い任せなところ、僕は嫌いじゃないよ。――けど、果たして僕に当てられるかな?」


 ジャーヴィスの言葉はただのブラフじゃない。

 本当に、当たらない自信があるんだ。

 それほどまでに、今日のジャーヴィスはノッている。


「試してみるさ……」


 この一撃に――すべてをかける。

 俺とジャーヴィスの戦いは、静かに決着の時を迎えようとしていた。

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