第144話 バレットVSジャーヴィス

 ついに俺たちの試合がコールされる。

 直後、会場からは割れんばかりの大歓声が巻き起こる。


「待ってたぜ!」

「今日のメインカードだ!」

「どっちも頑張れよ!」


 飛び交う歓声の中に混じる、「頑張れよ」の言葉。

 ほんの数ヶ月前からは、想像もできない――バレット・アルバースが、学生たちから声援を送られるなんて。


「バレット」


 ステージに上がる前、俺はティーテに呼び止められた。


「バレットが勝つと信じていますから……」

「任せておいてくれ。必ず勝利を持ち帰るよ」


 笑顔でティーテにそう告げて、俺は再びステージへ視線を移す。そこでは、すでにジャーヴィスが腕を組んで待ち構えていた。

 ――と、


「ジャーヴィス! 落ち着いていけよ! おまえならバレットに勝てるぞ!」


 力いっぱい声援を飛ばすのは、ジャーヴィスのパートナーである同級生のアンドレイ。

 そういえば、教室ではよく一緒にいたな。

 アンドレイが一方的に憧れていたって感じがした。ただ、ジャーヴィス自身も嫌な気はしていないようで、以前、「君以外に男子の友人ができたよ」って言っていたな。仲の良い男友だち・……パートナーには最適だな。


 ジャーヴィスのパートナーを確認してから、俺はステージへ。

俺がステージの真ん中まで来ると、ジャーヴィスは剣を抜いた。


「この日を待ち望んでいたよ、バレット」


 そう語ったジャーヴィスの瞳は爛々と輝いている。

 先ほどの短い言葉の端々からも、この日にかける想いというか、情熱が溢れ出ているように感じた。


 それは《決意》とでも呼べばいいのか。


 ジャーヴィスが俺との試合に何かを賭けてきているのは明白だった。

 それがなんであるか分からないし、分かったところで手を抜いた勝負をしても、ジャーヴィスにはきっとバレる。そして、俺は卒業するまで彼女から軽蔑されるだろう。


「…………」

 

 結局のところ、この試合で俺がやるべきことは「全力を出す」――ただそれだけ。

 原作には存在しないこのイベントが、今後どのような結果をもたらすのか、まったく想像できないのだが……少なくとも、真剣に戦わなくちゃいけないというのは、最良のルートへ向かうための必須条件だろう。


 やがて、客席から放たれる歓声が一切聞こえなくなる。

 皆、試合開始が間近に迫ったことを悟り、固唾を飲んでその瞬間を待っていた。

 そして――試合開始の鐘が鳴る。


「はっ!」


 鐘の音が響き渡る中、ジャーヴィスが先に仕掛けてきた。

 俺はその攻撃を真正面から受け止める。


「くっ!?」


 な、なんてパワーだ。

 弾き返して反撃しようとしたが、それは無理だ――と、


「ふん!」


 俺が力を入れた瞬間、ジャーヴィスは見計らったようにスッと力を抜いた。


 やられた。

 バランスを崩してしまい、身体がふらつく。そのせいで、大きな隙が生まれた。

 ジャーヴィスの狙いはこれだった。


「はあっ!」


 強烈な炎属性の一撃が放たれる。


「ぐあっ!?」


 剣を振り抜いた直後、俺の全身を炎が包む。

 ガードが遅れたせいで、ダメージは思っていたよりも大きい。


 ――だが、今のでハッキリと目が覚めたよ。

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