第141話 マデリーンの猛攻
双子の弟であるジョエルが、姉のマデリーン失踪事件に関与しているのかどうか。
そこに注目をしていたのだが――試合を追っているうちに、その考えは消え去った。
強い。
マデリーン・ハルマンは、魔剣の力を解放し、それをほとんど自由に操れるようになったラウルに匹敵する実力だ。
「はあっ!」
「ぐっ!?」
今も、ラウルはマデリーンの攻勢に押されっぱなし。
なんとか防ぐので精一杯といった感じだ。
「ラウル!?」
これまでも何度か演習でラウルの戦闘を見てきたが……あそこまで一方的に追い込まれるなんて、今目の前で起きている現実が信じられない。
「ラ、ラウル……」
サポート役を任されているユーリカは呆然としている。
こういう時こそ、的確にアドバイスを送るのが役目なのだが、恋人であるラウルが苦戦している様子を目の当たりにして、思考が働いていない様子だ。
……まずいな。
直撃を受けていない分、ラウルのライフは一気に減ったりはしない。だが、ダメージは確実にじわじわ削られていく。このまま反撃に出ることができなかったら、何もしないまま試合終了となってしまう。
それはラウルにとって一番避けたいところだ。
もちろん、勝利することが騎士団へ一番のアピールとなるのだが、仮に敗北したとしても、自分の強みを見せることができれば、入団への活路が開けるかもしれない。
だが、今のところはいいところがひとつもなかった。
ティーテやジャーヴィスもなんとかしたいという表情を浮かべているが、俺たちではどうすることもできない。
すでに残りライフは半分を切った。
このままじゃ――
「ラウル!」
敗北の文字がチラつき始めた時、ユーリカが叫んだ。
何か、具体的な策を思いついたのかと期待が膨らむ――が、
「負けないで!」
口から出たのは作戦ではなく願望だった。
――だけど、今のラウルには何よりの言葉だ。
固めたガードの先にある双眸には、まだ光が宿っている。
ラウルはあきらめていない。
逆転の時を見計らっていた。
「頑張れ、ラウル!」
ルール上、サポート役以外が具体的な策を与えれば、その時点で失格になる。
俺やティーテ、ジャーヴィスができるのは応援のみ。
だから、全力で声をあげて、ラウルに声援を送る。
「っ!」
俺たちの必死の応援がラウルに届いたのか――ラウルの眼光に鋭さが増し、攻めまくっていたマデリーンを弾き飛ばした。
「なっ!?」
思わぬ反撃に、マデリーンは思わず声をあげて驚く。
ほんの一瞬生じた隙を見逃さず、見事マデリーンと距離を取ることに成功した。
「いいぞ、ラウル!」
これで体勢を整えることができる。
ラウルの頭の中には、マデリーンのパワーとスピードがしっかりと刻み込まれたはず。それをもとに、今後の攻撃についてプランを練っていけばいい。
しかし、状況は俺を含めた周りの想定とはまるで違っていた。
猛攻を受けていたはずのラウルは、ライフこそ減っているがダメージは思ったよりも感じない。一方、マデリーンは「はあはあ」と肩で息をしていた。この場面だけ見たら、ラウルの方が優位に試合を運んでいるように映る。
「そうか……マデリーンは最初にすべてを賭けていたんだ」
「どういうことだ、バレット」
ジャーヴィスに尋ねられた俺は、マデリーンが取ったと思われる作戦を説明した。
「マデリーンは長期戦になってしまうことを避けたかったんだ。試合が長引けば、魔剣を持つラウルに分がある。開始と同時に勝負を決めようとした」
「だからあんなハイペースで攻撃していたのか」
「で、でも、ラウルはまったくダメージを受けていないみたいですね」
ティーテの疑問はもっともだ。
俺も、ラウルが一方的にやられていたと思っていたが、
「ラウルは途中から気づいていたんだ。だから防御に徹していた。――マデリーンが疲れて、隙が生まれるのを」
「ラウルの我慢勝ちというわけか」
「ああ……」
それが、俺の出した結論。
だが……なんだ?
マデリーンはまだ何かを隠しているような気がする……。
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