第139話 ラウルVSマデリーン(ジョエル)

 とうとう始まったラウルVSマデリーン(ジョエル)の試合。


「マデリーン・ハルマンは今年のルーキーの中じゃピカイチの成績らしいな」

「ハルマン家といえば、代々騎士の家系……素質は十分というわけか」

「だが、相手のラウル・ローレンツもなかなか侮れないぞ」

「学園騎士団の初代メンバーに選ばれるくらいだからな」

「先日発生したワイバーン襲撃事件も、バレット・アルバースと共に大活躍したって話だしなぁ」

「今大会の中ではバレット・アルバース対ジャーヴィス・レクルストに匹敵する屈指の好カードだな」


 観客たちも、この対戦カードには期待を寄せているようだった。


 貧民街出身ながら、魔剣の力を使いこなしつつあり、学園騎士団に抜擢されて結果もついてきているラウル。一方、名家の出身であり、今年のルーキーの中では一番の期待株であるマデリーン(ただし中身は双子の弟)。


 それぞれの対照的な背景もまた、人々の注目を集める要因となっていた。


「はあぁ……」


 試合開始と同時に、ラウルは魔剣に魔力を注ぎ込む。

 すると、紫色の輝きを放つ強力な魔力が全身を包み込んだ。


「おぉ! あれが魔剣の持つ魔力か!」

「なんと力強い!」

「それに、あれだけの魔力をまといながら、使用者であるラウル・ローレンツは平静を保っている!」

「並みの騎士ならばあの強力な魔力に呑み込まれてしまいそうなものだが……」


 これには特別席で観戦している騎士団関係者も驚いていた。

 その横で、ラウルの師匠である聖騎士クラウスさんは静かにドヤ顔。

 愛弟子が同僚たちに褒められていることで、相当気分を良くしているらしい。

 いい師弟関係だよ、ホント。


 ……けど、確かにラウルの魔力は以前よりも力強さを増している。

 呪印を断ち切ったことがきっかけだろうか。

 だったら、同じような現象を起こしたユーリカにも、あれと同じ呪印があるはず……学園祭が終わったら、ラウルとも話をして、ユーリカの呪印を断ち切るよう相談してみるか。


 一方、対戦相手であるジョエルは未だに困惑している様子だった。


「なんだ? マデリーンはなぜ戦闘態勢に移らないんだ?」

「まさか、あんな無防備のままラウル・ローレンツと戦う気か?」

「あの程度の魔力だけで迎え撃つとは……とんでもない自信の表れだな」


――違う。

 魔力を抑えているわけじゃなくて、あれが限界なんだ。

 同じ双子でも、ジョエルとマデリーンではその資質に大きな違いがある。

 これまで、授業などは誤魔化せてきたのだろうが……さすがに武闘大会という大舞台の前じゃ誤魔化しきれない。


 ここは速やかに棄権すべきでは……?

 ただ一方的にやられたとあっては、マデリーンもジョエルも大きく評判を落とすことになってしまう。


 ――それでも、サポート役に回っているエレノアさんは何も言わない。


「うおお!!」


 そうこうしているうちに、ラウルが攻撃を仕掛けた。

 紫色の輝きを放つ魔剣の一撃。

 ジョエルはそれを自身の剣で受け止める。

 鍔迫り合いとなったが、それはほんの一瞬のこと。

 ラウルはジョエルを吹き飛ばし、さらに追撃を仕掛ける。


「ひっ!」


 ジョエルは這いつくばってこれを回避。

 その臆病な戦いぶりに、会場が大きくざわつき始める。


「おいおい、あれが期待のルーキーかよ」

「がっかりだな」

「ここまで力の差があるとは……」


 一気に下がっていくジョエル――ではなく、マデリーンの評価。

 このままじゃまずいぞ。

 そう思った矢先、



「その試合待ったぁ!」



 どこからともなく、女の子の叫び声が響き渡った。

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