第138話 聖騎士、愛弟子を激励する

 長きにわたりラウルを苦しめていた呪印は聖剣の力で取り除かれた。

万全の状態へと戻ったことで、ラウルの表情は自信に満ち溢れている。


 会場へ戻ると、終わったと思っていた試合はまだ続いていた。

 観客や、すぐ近くで観戦しているティーテたちの反応を見るに、かなり白熱した展開となっているようだ。


 と、ここで俺はラウルの姿がないことに気づく。

 一体どこへ行ったのかと見回してみれば、会場の隅っこにいた。

 しかも、誰かといるようだが……あれは、


「クラウスさん?」


 ラウルの師匠である聖騎士クラウスさんだった。

 どうやら、弟子であるラウルを激励に来たらしい。


 俺もラウルへ声をかけようと近づいていくと、話しかける前にクラウスさんとの話は終わったようだ。そのクラウスさんは、俺の存在に気づくと静かに近寄り、すれ違いざまにこう言った。


「気をつけろ。この大会……まだ何かあるぞ」

「!?」


 俺が慌てて振り返ると、クラウスさんは騎士団の制服の胸ポケットから一枚のカードを取りだして俺に見せた。


 あのカード……そうか。クラウスさんも学園長から依頼されていたのか。

 って、そうだ。


「クラウスさん、そのカードは今使えません」

「何? どういうことだ?」

「先ほど学園長へ連絡をしようとしたのですが……妨害魔法が施されていて話ができなかったんです」

「妨害魔法だと? ……あのアビゲイル学園長が気づかないほどのものだというのか」


 つまり、相当な実力者が仕掛けているのは間違いない。


「……バレット、君もすぐ試合だろう?」

「はい。この次の次です」

「ならばこの件は俺に任せておけ。君は試合に集中するんだ」

「し、しかし!」

「俺は聖騎士クラウスだぞ?」


 クラウスさんは冗談半分本気半分って表情でそう言った。

 ……なんだろう。

 めちゃくちゃ頼もしいぞ。


「クラウスさん……」

「学生時代という限られた期間の中で、さらにそこから選ばれた数名しか立てない武闘大会の場だ。それを大切にしろ。なぁに、この会場には俺以外にも学園長の息のかかった者たちが潜んでいる。何かあれば、すぐに対処するさ」


 ポン、と俺の肩に優しく手を置いたクラウスさんは、さらにこう続けた。


「それに――君の相手はあのジャーヴィス・レクルストだ。彼の実力はよく知っているだろう?」

「はい……」

 

 そうだ。

 この武闘大会に並々ならぬ意欲を持って挑んでいるジャーヴィス。

 そんなジャーヴィスと本気でぶつかり合ったら……どうなるか分からない。


「気合入れていけよ」

「はい!」


 最後に背中をバシッと叩かれて、気合を注入。

 よっしゃ!

 おかげでいい感じに試合へ臨めるぞ。

 ちょうどその時、


「勝者! レオンティエン!」


 第二試合の勝者の名前が高らかに告げられた。

 つまり、


「続きまして第三試合! 光属性科二年・ラウルVS光属性科一年・マデリーン!」


 ラウルの試合が始まるってことだ。


「頑張ってね、ラウル!」

「ああ!」

 

 ユーリカに笑顔で送り出されたラウルは、魔剣を手にステージへと上がる。

 そのステージには、すでに対戦相手であるマデリーン――に変装した双子の弟・ジョエルが待ち構えていた。


 そのジョエルだが……顔面蒼白となっていた。

 無理もない。

 才能あふれる姉のマデリーンならばラウルと対等に戦えるだろうが、弟のジョエルは進級するのがやっとのレベルの落ちこぼれと聞く。

 元々、行方不明となっている姉マデリーンを見つけるまでのつなぎ役だったはずが、この大舞台に引っ張りだされてきたわけだからな。


「それにしても……変だな」


 なぜあそこまで動揺するのだろうか。

 本気で戦うと言っても、学園長の魔法によって身体的なダメージは負わないようになっている。姉の名に傷をつけることに対して、あそこまでナーバスになっているのか?



 そんなことを考えているうちに、試合開始の鐘が盛大に鳴らされた。

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