嫌われ勇者に転生したので愛され勇者を目指します！ ～すべての「ざまぁ」フラグをへし折って堅実に暮らしたい！～

第136話 異変続々

　なんだ……今の魔力は……。

　俺が不穏な気配を感じている一方で、会場は大盛り上がりを見せていた。

「このぉ！」

　巨漢のフォルガネス先輩は、ミルジー先輩を捕まえようと襲い掛かる。しかし、ミルジー先輩はそれを得意のフットワークで鮮やかにかわしていった。

　炎をまとった大きな拳が空を切るたびに、歓声で会場が膨らむ。さらに、ミルジー先輩がカウンターを決めたら、その膨らんだ歓声が一気に弾けたように盛り上がるのだ。

「ここまでは一方的な試合展開ですね」

「そうだな。しかし、フォルガネス先輩には一撃必殺の拳がある。ミルジー先輩も懸命に応戦しているが、あの猛攻をかわしつつ、筋肉の鎧でガードされて落ちづらくなっているポイントをノーダメージで削り切るのは至難の業だろう」

　ラウルとジャーヴィスは相変わらず試合の解説を挟みながら観戦していた。

　その横ではティーテとユーリカのふたりが手を取り合いながら試合の行方を見守っている。

　一方、俺は念のためにアビゲイル学園長へ連絡しようと一旦その場を離れた。

「確か、このカードに魔力を込めればよかったんだよな」

　使用方法を思い出しながら、早速魔力を込めてみるが、

「あ、あれ？」

　カードはまったく発動しない。

　どういうことだ？

　まさか不良品？

　……いや、学園長の前で試してみたし、問題なく使えるはずだ。

　――ということは、

「まさか……阻害魔法！？」

　誰かが俺たちの間の連絡を遮断するために、妨害用の魔法を使っているのか？

「くそっ！」

　俺はカードをしまい、会場へと戻る。

　すると、先ほどまでとは違い、今度はミルジー先輩がダウンしていた。

「形勢逆転か？」

「ああ。ついにフォルガネス先輩の炎の拳がミルジー先輩を捉えた」

　すでにフォルガネス先輩は勝った気でいるらしく、勝利の雄叫びをあげて観客にアピールしていた。しかし、

「ミルジー先輩のライフはまだ残っているな」

　この武闘大会のルールは、最初に定められたライフ（ＨＰ）がなくなるまで続く。

そのため、まだ十五ポイント残っているミルジー先輩は戦えるはずなのだが……どうやらフォルガネス先輩の一撃を食らって気を失ってしまったらしい。身体的なダメージ自体はないはずだが……それだけ衝撃が凄かったということだろう。

　やがて、審判が駆け寄り、ミルジー先輩の容体を確認。

　その結果、試合続行は不可能と判断され、フォルガネス先輩の逆転勝ちとなった。

「惜しかったですね、ミルジー先輩」

「途中まではよかったんですけど……」

　ミルジー先輩を応援していたティーテとユーリカはちょっと残念そう。

　だが、試合後の余韻に浸る間もなく、次の出場者がステージに上がる。

「続きまして第二試合！　水属性科二年・レオンティエンＶＳ地属性科二年・ラケール！」

　今度はドレッドヘアーがよく似合う陽気な男子レオンティエン先輩と、物静かでクールなラケール先輩の対戦カード。

　この次が、いよいよラウルとマデリーン――じゃなくて、ジョエルの対戦カードだ。

「……あれ？　ラウルは？」

　さっきまでジャーヴィスの横にいたラウルの姿がなかった。

「ラウルか？　彼ならトイレだ」

　俺が怪しいと睨んだ直後、ジャーヴィスからあっさりと真実が語られる。

　そこまで緊張していたとは……ちょっと声をかけてくるか。そもそも、次の試合の出場選手なんだから、早めに用意しないといけないし。

　やれやれ、と思いつつ、周囲を捜索するために会場を出ると、

「！？　ラウル！？」

　目の前の廊下に、ラウルが倒れていた。

　一体……何があったっていうんだ。