第135話 第1試合開始!

 武闘大会の会場であるコロシアムは熱狂に包まれていた。

 

 観客は学生だけでなく一般客も大勢訪れており、満員御礼って感じだ。


「す、凄い歓声ですね」

「あぁ……正直、驚いたよ」


 大歓声に包まれる中、武闘大会の一回戦が始まる。

 ……もしかしたら、観衆に紛れて悪さをしようとするヤツが潜んでいるかもしれない。

 俺は胸ポケットにしまってあるカードに手を添える。

 学園長がくれた、遠距離からでも連絡が取れるというあのカードだ。

 何か怪しいヤツを発見したら、試合中であろうとすぐに知らせないとな。

 

「それでは第一試合! 炎属性科二年・フォルガネスVS風属性科三年・ミルジー!」


 司会者を務める放送委員会所属の学生が高らかに告げると、歓声はさらに大きくなる。そして、名前を呼ばれたふたりは、コロシアム中央にあるステージへと駆けあがっていった。


「いよいよ始まったか……」


 そう呟いたのは、俺の横で試合を観戦しているジャーヴィスだ。

 出場選手とそのパートナーは、ステージ脇で待機している――つまり、もっとも近い場所から試合を観戦できるのだ。


 俺たち学園騎士団の面々は、固まって試合の行方を見守っていた。


「しかし……フォルガネス先輩とミルジー先輩が戦うとは」

「凄い体格差ですものね」

 

 俺とティーテがこの対戦カードで注目したのはお互いの体格差。

 男であるフォルガネス先輩は二メートル近い巨漢。対するミルジー先輩は女子の中でもかなり小柄な一メートル五十センチ。もはや親子レベルだ。


「フォルガネス先輩のパワーは全男子の中でもトップクラスですからね」

「だが、ミルジー先輩のスピードは侮れない。彼女を捉えることは、僕でも難しいだろう」


 ラウルとジャーヴィスは冷静にそう分析する。

 ――と、やはりちょっと気になることが。


「ラウル、本当に大丈夫か?」

「へ、平気ですって」


 半ば強引に参加を続けているラウルだが……大丈夫か?

 汗までかいて……正直、心配だ。


 俺はラウルの対戦相手であるジョエルへと視線を移す。

 ジョエルは試合そっちのけで、エレノアさんと話し込んでいる。

 試合の打ち合わせか?

 それにしては……なんだか様子がおかしい気がする。


 俺がふたりへ視線を送っていると、観客たちが一斉に声を上げた。

 どうやら、試合に大きな動きがあったらしい。

 俺は視線をふたりからステージへと変えた。


 そこでは、巨漢のフォルガネス先輩が、ミルジー先輩の前に跪いている光景が。


「! い、一体何が……」

「あ、あれ? 見ていなかったんですか、バレット」


 動揺気味に話すティーテ。

 ジャーヴィスもラウルもユーリカも、試合の展開に唖然としていた。


「お、驚いた……ルールでダメージがないとはいえ、あの大きな体を水魔法の一撃で崩してしまうなんて……」

「え、えぇ、ふたりの実力差は拮抗していたはず」

「それが、こんな一方的な展開になるなんて……」


 どうやら、試合の展開としてはミルジー先輩がフォルガネス先輩を圧倒しているとのことだった。

 ……でも、妙だな。

 ラウルが言ったように、下馬評ではふたりの実力に差はそれほどないので、戦いは長引くとされていたからだ。


「ぐっ――おぉ!」


 膝をついていたフォルガネス先輩が雄叫びをあげながら立ち上がる。

 さすがはタフさも学園トップクラスだけはある。

 

「どうやら、まだ決着とはいかないようですね」

「あ、あぁ」


 俺はラウルの言葉に返事をして――周囲への警戒を強めた。

 今……不可解な魔力を探知したからだ。

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