第134話 開幕直前
カフェでゆったりとした時間を過ごした後は――正反対の出来事が待っていた。
そう。
武闘大会の本番である。
アストル学園がある学園郷の一部にはコロシアムがある。
今回の武闘大会や、場合によっては騎士団の昇格試験などといった特別なイベントで使用される場所だ。
「いよいよか……」
「わ、私まで緊張してきました……」
控室に到着した俺とティーテだったが、すでに緊張していた。
開始まで時間があるということで、控室には他の学生の姿はない。ティーテとふたりきりと言えば聞こえはいいが……今はいちゃいちゃできる余裕はなかった。
相手はあのジャーヴィス。
しかも、何やら悲壮な決意をにじませた感じがしていた。
今のジャーヴィスは……これまでの力量だけでは計り知れないところがある。
「バレット……大丈夫ですか?」
俺の気持ちが揺らいでいることに気がついたティーテが、俺の右手にそっと自分の手を添える。そのぬくもりは、今まで固まっていた俺の気持ちを一瞬にほぐした。
「ありがとう、ティーテ」
「いえ、お力になれたのなら嬉しいです」
ニコッと微笑むティーテ。
……うん。
大丈夫だ。
サポート役としてティーテがそばにいてくれたら、俺は誰が相手だろうと勝てる。
――って、いちゃいちゃする気がないなんて言っておきながら、結局ティーテのことばかりを考えているな。
しかし、さすがに今回はビシッと気を引き締めないといけない。
と、そこへ、
「あれ? バレット様?」
「ティーテ様まで! もういらっしゃっていたんですか!?」
やってきたのはラウルと、ラウルのパートナーを務めるユーリカだった。
「そういうふたりも随分早いじゃないか」
「いや、その、緊張しちゃって……」
ラウルは照れ臭そうにそんなことを言う――うん?
「ラウル……もしかして、体調が優れないか?」
「えっ!? ど、どうして!?」
どうやら図星らしい。
医療知識に関して素人の俺でも、今のラウルの顔色が芳しくないことくらい分かる。
「無理はよくないぞ、ラウル」
「そ、そうですよ!」
俺とティーテがそう伝えるも、ラウルは苦笑いを浮かべるだけ。
妙だな、と思ったが――すぐに思い出した。
ラウルは騎士団への入団を希望している。学園騎士団に籍を置くラウルは、他の学生に比べて大きくリードしているとはいえ、この武闘大会の結果次第では、評価が一変してしまうこともある。
ラウルの対戦相手はマデリーン――に、女装している双子の弟のジョエル。
ただ、ラウルはそのことを知らない。
本物のマデリーンだと思っている。
……実際に弟と戦うとなったら、ラウルが圧倒的に有利だろう。体調が優れないとはいえ、問題ないだろう。
次第に、武闘大会の参加学生たちが控室に集まってくる。
もちろん、その中にはマデリーンに女装したジョエルと、彼のパートナーを務めるメイドのエレノアさんもいる。さらに、
「やあ、バレット」
俺たちのもとへやってきたジャーヴィス。
その表情は力みがなく、涼やかささえ感じる。
「今日は是非、本気で戦ってもらいたいな」
「当然だ。正々堂々戦おう」
俺とジャーヴィスは固い握手を交わす。
不安な面もあるが、いよいよ武闘大会の幕あがる。
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