第131話 ティーテの晴れ舞台

 ついに始まったドレス品評会。


「ふふふ……いよいよね」


 早くも興奮気味のリリア様だが、周囲にはいざという時のため、いかなる状況にも対応できるよう使用人たちが集結していた。最近のアクティブさですっかり忘れてしまっているが、この人は元々病弱なんだよな。


 さて、そのドレス品評会だが、参加している十五着のドレスを見終わった後にどれが一番よかったのか、投票してナンバーワンを決めるというシステムになっていた。

 この品評会における「よかった」というのは、モデルとなっている人物とドレスの調和を指している。なので、ドレス製作者だけでなく、モデルにも、ドレスをよりよく見せるという重要な役割があるのだ。


その品評会は参加者がひとりずつ順番に出てくる。

 周囲の視線がステージに集まる中、注目のひとり目は――


「おっ? コルネルか」


 ティーテの友人であるコルネルだった。


「彼女がコルネルさんね」

「ご存知だったんですか、リリア様」

「ティーテがよく話していたから、覚えているのよ」


 そういえば、俺が最初に会った学園関係者もコルネルだったな。

 そのコルネルは本人の明るい性格にマッチした黄色い華やかなドレス。


「ほほう」


 思わず唸ってしまうほど完成度が高い。

 いつもは元気いっぱいのコルネルだが、さすがに今日は緊張しているようで、いつもの笑顔もどこかぎこちなく映る。しかし、その初々しさが逆に観客のハートを鷲掴みにした。


「一番手は不利と聞きましたけど、かなり好評なようですね」

「えぇ。私もいいドレスだと思うわ」


 さっきまでティーテで頭がいっぱいだったリリア様をここまで落ち着かせるとは。

 やるなぁ、コルネル。


 続いて出てきたのは、


「!? ク、クライネ!?」


 クラス委員長のクライネだった。


「~~~~」


 さっきのコルネル以上にぎこちない動きに笑顔。

 まあ、容姿端麗であることは認めるが……着ているドレスにも負けないくらい顔が赤いっていうのは、やはり羞恥心から来るのだろうか。

 一体なぜ参加したのか――と、思っていたら、少し離れた席で興奮気味に手を振っているメリアを発見する。


 ……さては、メリアに押し切られたな。

 きっと、最初は普通にモデルを打診されたが断って、それを聞いたメリアから「どのドレスも似合うよ♪」とか言われて参加を決意したのだろう。俺が言うのもなんだが、委員長ってチョロいところあるから……。


 その後も何人かのモデルが登場し、いよいよティーテの番がやってきた。

 身構える俺とリリア様。

 心配する使用人たち。


 異様な雰囲気の中、青いドレスに身を包んだティーテがやってきた。


「「――――」」


 その瞬間、俺とリリア様の思考は完全停止。

危うく存在自体が完全消滅するところだった。


「わ、我が娘ながら……恐ろしいポテンシャルだわ……」

「さ、さすがですね……」


 俺とリリア様は互いに自分の胸を抑えながら、ティーテの晴れ舞台を目に焼きつけている。

 俺の後ろでは、マリナ、プリーム、レベッカのメイド三人衆も感動に瞳が潤んでいた。本当の妹のように思っているって言っていたものな。


 俺たちはたまらずスタンディングオベーションでティーテを迎え入れたが、運営に怒られて自粛。


 その後、ティーテが下がるまで俺たちは無言のままガン見し、舞台袖に消えてからはリリア様と固い握手を交わした。ふたり揃ってティーテに投票したのは言うまでもない。


「いやぁ……素晴らしかったですね、リリア様」

「えぇ……常軌を逸した愛らしさだったわ」


 ドレス品評会――俺とリリア様にとっては、最高のイベントとなった。

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