第130話 学園祭、開幕
朝食後。
それぞれの仕事先へ向けて、俺たちは散っていった。
とはいえ、武闘大会参加組である俺は、会場設営以外にこれといって役割はない。ティーテを愛でることに専念できるわけだが……その前に、学園長からの呼び出し応じなくてはならなかった。
と、いうわけで、学園長室を訪れた俺に、アビゲイル学園長はある物を渡してきた。
それは、
「これは……カード?」
前世の世界では見慣れた、トレーディングカードのような代物。
両面に魔法文字が記されたそれには、ある特殊な力が宿っていた。
「このカードに魔力を込めると――こんなことができる」
そう言って、学園長は俺に渡した物と同じカードを手にし、そこへ魔力を込める。すると、
「わっ!」
俺の持つカードが振動を始めた。
「それに魔力を込めて耳を近づけてみなさい」
言われるがままやってみると、
「どう? 聞こえる?」
カードから学園長の声が聞こえた。
「こ、これは……」
「遠く離れた場所であっても、これならいつでも連絡を取ることができる」
凄いな、これ。
機能的には携帯電話と変わらないじゃないか。
「まあ、まだ開発段階の試作品なので、不具合が起きる可能性もなくはないが……今日一日くらいはもつだろう」
「じゃあ、俺への頼み事というのは――」
「学園を見張っていてもらいたいのさ」
鋭くなった学園長の眼光が俺を射抜く。
な、なんて威圧感だ。
いつもはおちゃらけているのに、まるで空気が変わったぞ。
「君は今日一日を自由に過ごしてもらって構わない。だけど、その途中で何かおかしな点などを発見したらすぐに知らせてほしい。あと、君だけじゃなく、一部教職員にも同じカードを配っている。何かあれば、近くの教職員に直接助けを求めてもらってもいい」
「分かりました」
つまり監視業ってわけか。
ティーテとの甘酸っぱい青春の一ページ的な一日を過ごす予定だったのに……まあ、これもひいてはティーテのためになる。
それに、今や俺にとってもこの学園は大切な場所だ。
コルネル、クライネ、メリア、そして緑化委員の人たち――聖剣を授かった者として、みんなをしっかり守らなくちゃな。
学園長からカードを受け取った俺は、すぐさまドレス品評会の会場へと向かった。
すると、その途中で、
「あっ、バレット先輩」
マデリーン――じゃなくて、マデリーンに変装(女装)した双子の弟のジョエル、そしてメイドのエレノアさんと出くわした。
「バレット様はこれからドレス品評会の会場へ?」
「えぇ。婚約者のティーテが出るので、応援に行こうと――おふたりは?」
「同じですよ」
「俺――じゃなくて、私たちもドレス品評会に顔を出そうかと」
……うん?
ジョエルのヤツ――妙に落ち着いているな。
姉が見つからないまま当日を迎えたので、ひどく焦っていると思ったのだが……逆に吹っ切れたのかな。
ともかく、俺たちは間もなく始まるドレス品評会に間に合うよう会場を目指した。
会場はすでに大きな盛り上がりを見せていた。
今回のドレス品評会に出る作品は全部で十五作。
そのすべてのドレスを、学生が着ることになっているのだ。
会場へ到着すると、
「遅かったですね、バレット」
ティーテの母親であるリリア様が俺を呼ぶ。
ジョエルたちにそのことを伝え、俺はリリア様のもとへ。
「さあ、共に見届けましょう――ティーテの雄姿を」
「はい!」
俺とリリア様の視線はステージに釘付けとなり――いよいよ品評会が始まった。
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