第127話 深夜の出会い

 深夜。

 行方不明となっているマデリーン・ハルマンを捜して、俺は寮を抜け出し、ある場所へと向かった。


 そこは――学園のシンボルとも言える時計台。


 ここはラウルとマデリーンが初めて会った場所でもある。

 その後、双子の弟のジョエルが言っていたように、モンスターに襲われていたところを救われて好きになる。

 原作での会話を思い出すと、少なくともマデリーンにとってここは特別な場所なんだ。

 そう……時系列的に、マデリーン・ハルマンはきっと、原作ヒロインたちの中で最初にラウルを好きになった人物だったんだ。

 しかし、今、ラウルは昔からの想い人だったユーリカと結ばれた。

 この世界で、マデリーンとラウルが結ばれる可能性は――ほぼゼロと言っていい。


 おまけに、あのふたりの仲の良さは学園でも評判だ。

 ちょっとした行き違いがあって、しばらくの間は疎遠になっていたが、互いに貧民街育ちという苦しい環境を生き抜いてきたとあって、その絆は誤解がとけたと同時に再燃。今では学園で知らぬ者はいないとさえ言われるほどのバカップルになっている。


 ……マデリーンにとっては、辛いだろうな。


 原作【最弱聖剣士の成り上がり】のヒロインたちは、みんなラウルが魔剣の力を解放させ、英雄としての道を歩み始めたところから想いを寄せているが……マデリーンだけはそのずっと前から、ラウルへ好意を持っていた。


 もしかしたら、原作のマデリーンはユーリカとの過去についても知っていた可能性がある。

 だとすれば……ひとりのものになるより、複数でも自分を見てくれている時間が得られるハーレムルートは、マデリーンにとって歓迎すべきことだったのかもしれない。


「……まあ、俺の推測だけど」


 そんなことを考えながら、時計塔の中を捜すが、


「いない……」


 真夜中の捜索は空振りに終わった――が、まったく収穫がないわけじゃない。

 時計塔内に漂う魔力。

 ……これは尋常じゃない。

 戦った形跡?

 それとも、何かに激しく抵抗した?

 いずれにせよ、よろしくない事態がここで起きたのは間違いない。


 ――だけど、これらとマデリーン・ハルマンをつなげる材料は何ひとつない。


「もしかして……学園から出たのか?」


 学園郷の外へ出ることはできない――が、それはあくまでも合法的な手段を用いた場合の話だ。なんらかの手段を使い、敷地の外へ出ること自体は可能なんだ。実際、過去にも例がないわけじゃない。


 しかし、その場合はすぐに教師陣に見つかって、強制送還か、或いは自主退学の道を歩むことになる。


 だが、行方をくらましてからすでに何日も経過しているというのが気になる。

 ……恐らく、ハルマン家は何かを隠しているんじゃないか?

 ジョエルの様子からすると、彼には伝わっていない。けど、あのメイドさんは何かを知っているかも。


「……まったく、楽しい学園祭に余計な水を差してくれたもんだ」


 嫌な予感はする。

 しかし、すべてが憶測の域を出ない。


 ――その時、



「こんな時間にお出かけですか?」



 声をかけられ、慌てて振り返る。

 そこには、


「が、学園長……」


 アビゲイル学園長が立っていた。


「自主鍛錬――というわけではなさそうね」

「え、えぇ……」

「それなら――あなたも私と同じで、マデリーン・ハルマンを捜していたの?」

「!? どうして!?」


 学園側に報告していないって話だったのに……どうして学園長は知っているんだ!? それに「私と同じで」って……


「……その反応を見ると、やはり勘づいていたようね」

「ま、まあ……」

「けれど、どうしてこの時計塔が怪しいと?」

「それは、ここがラウルとマデリーンの――」


 俺はハッとなって口を押さえた。

 まさか、「原作のシーンから追いかけてきました」なんて言えるわけがない。


「ラウル? ラウル・ローレンツがかかわっているというの?」

「い、いえ……マデリーンはラウルに憧れていたようですから、彼のお気に入りの場所であるここに姿を見せるかも、と思って」

「……そう」


 とりあえず、学園長は信用してくれたらしい。


「あなたも感じ取っているようね。この学園に起き始めている異変に」

「! は、はい」

「なら……協力してほしいことがあるの」

「協力……?」

 

 学園長からの協力依頼?

 それって……一体どんな内容なんだ?




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