第126話 マデリーン・ハルマンという少女

 その日の夜。

 俺はベッドで横になりながら、必死に原作の内容を思い出していた。

 ――が、結局何も思い浮かばない。

 気を取り直して、俺はマデリーン・ハルマンという登場人物とラウルの絡みについて思い出す。


 マデリーンは、原作【最弱聖剣士の成り上がり】の中でも屈指の人気を誇るヒロインだ。それまで、最初にハーレム要員となったティーテがメインヒロイン的な扱いを受けていたのだが、途中で学園時代の後輩であるマデリーンが加わり、様相が一変。


 強がりだけど寂しがり屋というギャップを持ったマデリーンに、多くの読者が夢中となっていった。

 掲載されている小説投稿サイトの感想欄にも、「もっとマデリーンの活躍が見たい!」という意見が多くなり、それに影響を受けた作者は、マデリーンの登場機会を増やすため、ティーテの出番を減らし、マデリーンの登場機会を増やしていった。


 そういえば、作者がSNSにあげていた一巻のカバーイラストも、マデリーンとラウルが抱き合っているものだったな。


「……あれ?」


 その時、俺はふと思い出す。

 引き金はさっき頭をよぎった作者のSNSだ。


 初めてカバーイラストを載せた時、こんな文章が添えられていた。


『書籍版ではWeb版にはなかった書き下ろしを掲載! 作中でも屈指の人気を誇るマデリーンと主人公ラウルの初めての出会いが――!?』


 通常、書籍版ではWebにないオリジナルエピソードが書き下ろしでついてくる。【最弱聖剣士の成り上がり】の第一巻では、それがラウルとマデリーンの出会いについて。

 だが、気になるのは「初めて」というフレーズ。


 ということは……Web版でマデリーンが初登場した時、ラウルとはすでに顔馴染みだったというわけだ。


「マデリーンの初登場って……」


 俺は必死に記憶をたどる。

 もしかしたら、その出会いのシーンに何かヒントが残っているかもしれない。


「確か……ラウルは第一章でパーティーを追放されて、その後……」


 その後、新たな仕事先を求めて一度学園を訪れ、まずはテシェイラ先生と再会。

それから、見習い神官のミーアさんと出会った――


「! ここだ!」


 俺は思わず起き上がって叫んだ。

 そうだ。

 この後だ。

 ミーアさんと会話をしている途中で、まだ学園に通っていた後輩のマデリーンと出会ったんだ。それで、あの時のふたりの会話は……

 

『お久しぶりです、ラウル先輩』

『やあ、マデリーン』

『ふふふ』

『えっ? な、なんで笑ってるの?』

『あっ! い、いえ、凄い偶然だなぁって』

『偶然?』

『……その顔は、忘れていますね?』

『な、何を?』

『だって、ここは――』


 ――ああっ!


「思い出したぁ!」


 そうだ!

 原作でのラウルとマデリーンの初登場シーン――やっぱり、あそこにヒントは隠されていたんだ!


「間違いない……マデリーン・ハルマンはあそこにいる」


 それが分かると、俺はベッドから起き上がる。

 明日の朝なんて悠長なこと言っていられるか。

 学園祭の午後には、ラウルとの戦いが待っているんだ。


 原作におけるその後のシーンを思い返すと、恐らく、マデリーンは――


「……行くしかねぇよな」


 それを思えば、マデリーンは絶対にラウルと戦わないといけない。双子の弟に代わりをやらせるには勿体ない。


 ラウルとの戦いが、きっといいきっかけになるはずだ。

 消灯時間をすぎているため、静かに、慎重に事を運ぶ必要がある。


「さっさと着替えるか」


 俺は決意を胸に、クローゼットを開けた。

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